【第1回】女優 川上麻衣子さん
川上麻衣子さんにとって今でも鮮やかに蘇(よみがえ)る劇場は、数々の名舞台を生んできた「紀伊國屋ホール」(東京都新宿区、紀伊國屋書店新宿本店4階)だ。2001年1月、ここで初のシェークスピア劇『十二夜』(野伏翔演出)に巡り会った。主人公の双子の兄妹セバスチャンとヴァイオラを一人二役で演じた。「役者にとっては格式の高い憧れの舞台。それと同時に声の反響がすばらしく、舞台からの客席の広がりなどもとても良く考えられていると思う」。完成は1964年。前川國男の設計だ。
川上さんは父親の信二さんが家具&インテリアデザイナー、母親の玲子さんがテキスタイル&インテリアデザイナーという環境に育ち、本人もガラス作家として展覧会を開いたり、作品を販売している。両親の留学先スウェーデン・ストックホルムで生まれた。木の温もりに囲まれた同国の文化が大好きだともいう。
そんな川上さんが役者として印象に残るいくつかの劇場の中から選んでくれたのが、紀伊國屋ホールだった。
「父も母もこのホール(紀伊国屋書店新宿本店)が前川國男さんの設計であることは知っていた。やはり(空間的にも)すごい劇場だったのだと改めて思った。芝居の場合、劇場の力というのはとても大きい。中でも一番大きいのは、やはり声の反響。劇場によってぜんぜん違う。紀伊国屋ホールは無理をしなくても声が通る」
観客として故・井上ひさしさんの演劇などをよく見に行っていた。「見る側として心地よい空間だったが、舞台に立ってみてもそれは変わらなかった。舞台から客席を見た時の広がり、お客さんとの位置関係、距離感、いすの座り心地などがよく考えられていると思う。特にいすは、前に座っているお客さんの頭が気にならないことや、座り心地がとても重要だと思う。その配慮を建築家の方々にぜひお願いしたい」
ホールを案内してくれた安部邦彦支配人は「舞台からは最後列の観客の顔までわかる」と話す。座席数は418。このコンパクトな劇場空間が俳優と観客の一体感を生むのであろう……
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紀伊国屋ホール
4階に紀伊國屋ホールを持つ紀伊國屋書店新宿本店は、前川國男の「打ち込みタイル工法」の第1号として知られる。晩年の前川は、人生のはかなさに対する建築の「永遠」をテーマにしていたとされる。型枠にあらかじめタイルを釘止めしてコンクリートを流し込む同工法は、その「永遠」の考え方の一つといえる。
当時前川事務所所員で現場主任を務めた田島敏也さんは「コンクリート打ち放しのように汚れず、深みがあって耐久性があるということで、打ち込みタイルを展開していった」と話す。同じく現場主任だった土屋巌さんは「全員建築家の考えのもと入社2年くらいでこの現場を担当した。タイルが落下しないよう建設会社(ハザマ)にも頼んで慎重に進めたのを記憶している」と振り返る。田島さんは「ホール内部はおとなしい仕上げ。アルミの鋳物による壁の彫刻は向井良吉氏の作品で、エコーが出ないよう、音を散らすことも目的に設置された」という。
ホールは完成当時のたたずまいを今も残している。









