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【第12回】ピアニスト 清塚 信也さん

 リサイタルだけでなく多彩な演奏活動を積極的に続ける若手ピアニスト・清塚信也さんは、これまで国内外で数多くのホールに接してきた。テレビドラマ、映画音楽のほか、病院でのボランティア演奏、ピアノ講座とまさにマルチ・ピアニストだ。東日本大震災の復興支援チャリティーコンサートも前向きに取り組んでいる。5年前の人気テレビドラマ『のだめカンタービレ』では、指揮者・千秋が弾く曲の吹き替え演奏で脚光を浴びた。5歳からクラシックピアノの英才教育を受け、研ぎ澄まされた耳と五感でそれぞれのホールの違いを敏感にとらえる。インタビューではホールの役割や特徴をとても論理的、明快に分析してくれた。中でも東京都千代田区にある「紀尾井ホール」は、「自分の出している音が客観的に聞こえ、お客さんとの呼吸まで一体感を味わえる繊細なホール」だと高く評価する。 (津川学)

清塚 信也 「本当にうまくいっている時は、客席がぴたっと止まるんですよ。それこそ息を飲むというか……。それができていない時は『つじつま』が合っていないと思うんです。その意味でお客さんとの呼吸まで一体感を味わえる演奏ができたときは最高です。紀尾井ホールはそれがとてもよくわかる繊細なホールですね。それだけに怖いホールでもあります」

 ピアノを弾いている時に何を考えているかとよく質問を受けるが、「いま弾いている演奏をお客さんがどう感じてくれているかをいつも考えている」という。

 紀尾井ホールがお客さんの反応を細やかに感じられるのは、壁と天井を固い素材で造り、床をやや柔らかめにした建築空間構造が影響している。固い壁や天井にぶつかった「一次反射」と呼ばれる間接音は緊密で速度が早く、お客さんの耳に素早く届く。床には木を使い、その下に空気層を造って低音を響かせるようにした。

 「お客さんにいい音が届いているかどうかがとても大切なのですが、演奏する音楽家にとっては出している音が自分自身にクリアに聞こえることが重要なんです。つまりは、自分がいまどういう音を出しているかが客観的にわかることが、いいホールの重要な条件だといえます。大きい音を出していると思っていても、物足りないんじゃないかとか、自分の音が聞こえないと不安になって、余計な心配をしてしまいます。音楽家はみんな思っていることですね」

 お客さんに聞こえる音とほぼ同じ音が聞こえてくれば、調整がしやすい。聞こえない場合は、経験や勘に頼るしかないと言う。

 「紀尾井ホールは、自分の出す音はクリアに聞こえ、客席の一番後ろの話し声も緊張感を持って伝わってきて、とても繊細なホールだと思います。800席という中ホールにしたことも良かったのかもしれません。クラシックのように緻密さが求められる音楽には非常にいい空間です。音の一つひとつの伸び、奥深さを表現するにはすばらしいホールだと思います」

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紀尾井ホール

紀尾井ホール 1995年4月、桜が満開の東京・紀尾井町に、その由緒ある地名を冠した、新日鉄文化財団運営の「紀尾井ホール」がオープンした。ホールの幕開けは、オープンと同時に誕生したレジデント・オーケストラ「紀尾井シンフォニエッタ東京」(当時の首席指揮者・尾高忠明氏)が『序奏とアレグロ』(エルガー作曲)を奏でた。

 「紀尾井ホール」は新日本製鉄創立20周年記念事業として構想された。その端緒は、新日鉄が55年から半世紀にわたって続けた「新日鉄コンサート」というラジオ音楽番組だ。日本の若手音楽家の支援も柱にしたこの番組は同社にとっての財産。これを発展させる形で「新日鉄音楽賞」が創設され、ホール建設が決まった。800席のクラシック専用ホールと、その上階に250席の邦楽専用ホールが併設された。施工を新日鉄・鹿島・大成建設・竹中工務店JV、音響設計を永田音響設計が担当した。

 ホールでの文化活動は当初から社のスタッフによる自主企画とすること、そして設計に当たっては、企画(ソフト)から設計(ハード)を発想すべきであることが確認された。このソフト、ハード一体となった設計思想が、オープン当初から音響の良さへの高い評価につながった。

 当時、意匠設計のリーダーを務めた山下設計の山下稔取締役常務執行役員は、「ソフトを確定し、それを設計に反映するというプロセスが理想に近い形で実現できました。例えば、クラシック専用ホールは、レジデント・オーケストラの規模に合わせ、室内オーケストラの演奏を最も美しく響かせる音響空間をつくる、という明確な目的を持ったものです。少しでも良い音が出る可能性があるところは、とにかく工夫を重ねました。これは民間のホールとはいえ、なかなかできないこと」と振り返る。

 ヨーロッパの伝統的な音楽ホールをベースにした「シューボックス型」を採用し、「天空から降り注ぎ、地から湧き上がる音」の実現をめざした。「伝統的なホール空間を検証する一方、新たな技術を導入した現代のホールづくりに取り組みました」

 シューボックス型の特徴である一次反射音のスピードを高めるために、壁・天井は剛性の高い材料や工法を採用、床は低音域の重厚さを求めて、舞台から客席全体を総木軸組みで構成した。これらが総合して音の緊密感を高めている。

 さらに、演奏し鑑賞する場として「空間としての心地良さ」を大切にした。スクエアな空間に対して、音の拡散も意図した化粧柱や柔らかな曲面などを設け、シャンデリアとともに気品ある華やかさを演出している。ホール全体は木の素材を生かしたもので、落ち着いた雰囲気を醸成、今でも木の香りを残す。

 新日鉄文化財団の町田龍一常務理事(事務局長)は「お客様の評価はとてもありがたく思っています。ホールは、つくって見ないと分からないところがあるのですが、建築設計、音響設計、施工関係者のご苦労で実現できたことに感謝しています。いただく評価は、音響など科学的な面のほか、木を素材とした内装がとても落ち着くという声も多くあります」と話す。

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