【第9回】ジャズバイオリニスト 寺井 尚子さん
米国のジャズギタリスト、リー・リトナーさんプロデュースの寺井さんのアルバム『プリンセスT』のリリースを記念して、リトナーさんを含むレコーディングメンバーが2000年、同名の日本ツアーを行った。エピソードとは、東京、大阪などを回っている途中で、このツアーはライブレコードとして残そうと急きょ決まったことだ。
そのライブ会場が「愛知芸術文化センター」だった。同センターは美術館、芸術劇場、文化情報センターで構成される。芸術劇場には本格的なオペラに対応した大ホールのほかコンサートホール、小ホールがある。ライブレコーディングしたのはこの中の大ホール。2500席を持つ大空間だ。
「ライブは『Naoko Live』というアルバムになりました。アルバム編集のためにアメリカに行って立ち会いまして、リー・リトナーさんらと一緒に曲を並べるなどの編集をしたのですが、ステージを思い起こしながらの楽しい作業でしたね。ステージで、えっ、こんなことをやったの? というようなことも話しながら。とても思い出に残るライブでした」
寺井さんにとってはこれが初のライブアルバムとなった。
このライブの後、「ぜひまたここで」と2回のコンサートを開いている。
「実際に演奏してみて響きの素晴らしさを実感しました。バイオリンはやはりアコースティックな音色が持ち味だと思います。そこにこだわって、ジャズとは言っても私はアコースティックバイオリンを使っています。ドラムという打楽器が入りますから、編成上はマイクを使うのでサウンドチェックは念を入れて行っています」
響きについてはこう語る。
「愛知芸術文化センターの場合、ホールの持つ素晴らしい響きがあります。それがあると生の音もお客さまの耳に届く。演奏している側にとってもとても心地よい時間になるんですよ。すべては音がつくると思っていますから、本当に音にはこだわっています」
マイクを通したサウンドチェックにもこだわるが、生の音も追求し続けている。
「バイオリンの生の音がありますね。その音をこうしたいという思いが自分の中にはあって、日々イメージに近づけるように演奏をしています。ですから、会場が良好な響きを持っていればそれだけでとてもうれしい」
いいホールは音に包まれ、客席とステージが一体になって、会場中が音で響き渡る。渦を巻くということもある。「イスの材質、扉の構造などすべてが響きに影響します。建物全体が違うということだと思います。愛知芸術文化センターは本格的なオペラを上演するところだけあって、楽屋の湿度もとても良く考えられている。バイオリンのような弦楽器は湿度に大きく左右されるので、湿度管理は重要になるんです。ピアノのコンディションもとてもいいと思います。すべてが音楽に向かっているんですよ……
→この記事の続きは『建設通信新聞 電子版』で!
愛知芸術文化センター
愛知芸術文化センター(名古屋市、愛知芸文)の大ホールは、日本で初の本格的なオペラ劇場として、1992年10月末にオープンした。愛知県営の施設だ。同じように形容される61年竣工の東京文化会館は、いまもオペラ、バレエの公演が最も多いが、愛知芸文大ホールの舞台面積は東京文化会館の1.6倍と圧倒的な広さを誇る。
さらに30年の時の流れは舞台技術を進化させ、コンピューター制御、4面の回り舞台による自由な場面転換を可能にした。多面舞台がないと演出できないオペラ『影のない女』がオープニングで上演された時、設計協力者として舞台計画などを担当した本杉省三氏は当時、東京文化会館を超える舞台空間ができたのではないかと述べている。
設計はA&T建築研究所。87年に結果が発表されたコンペでは、大成建設設計本部課長だった進藤繁氏の案が最優秀に。その後、進藤氏が独立しA&T建築研究所を立ち上げ、愛知芸文の設計を総括した。延べ7万6000㎡にも及ぶビッグプロジェクトだけに、コンペの参加登録は695人にも及んだ。その少し前に実施された「第二国立劇場」に応募した人、ゼネコンに所属する人の参加が目立った。施工は大成建設JV。
進藤氏は現在、A&T建築研究所会長。当時の設計思想を改めて話してくれた。
「建物は、名古屋市中心部を南北に走る久屋大通に面していまして、この大通を『文化と緑の軸』と名付けました。建設地はこの軸と東西に伸びる商業の軸との交点です。文化と商業の交点ということでプライマリーな力強さをイメージし、四角い外観にしました。ただプライマリーだけでは堅いので、内部に円形の『ガラスのシリンダー』をはめ込みました。このシリンダーは50mの吹き抜けで、フォーラムと称した縦に延びる広場です」
大ホールは基本的に馬蹄形だが、「サイドラインをきちんと確保して視界を確保しています」と言う。「オペラを主とするホールなので、残響時間は短めで1.4-1.5秒。コンサートホールとしてはジャズなどは切れのいい音が出るのではないでしょうか」
こけら落としで上演された『影のない女』の指揮者、ヴォルフガング・サヴァリッシュ氏(当時バイエルン国立歌劇場総監督)は、動線やホールの美しさ、音の響きなどほぼすべてに最高の賛辞を贈っている。
進藤氏は当時、どんな使われ方をしてほしいかという質問に「無目的にいろいろな人に使ってほしい」と時代を先取りしていた。









