ポリウスと吉村建設工業/重力式擁壁を直接印刷/国内最大級のプリンター施工 | 建設通信新聞Digital

11月10日 月曜日

企業

ポリウスと吉村建設工業/重力式擁壁を直接印刷/国内最大級のプリンター施工

3Dプリンターによる擁壁の製作
3Dプリンターで施工した擁壁
 「ものづくりの在り方を変えたい」。そんな思いから吉村建設工業と建設用3Dプリンターを手がけるPolyuse(ポリウス・大岡航社長)は6日、京都市で国内最大規模となる建設用3Dプリンター施工に挑戦している。6日、「3・3・5中山石見線道路改築(その22)工事」の現場で重力式擁壁を施工箇所で直接印刷する「オンサイトプリンティング」を日本で初めて実施した。 今回のオンサイトプリンティングでは、ポリウスが開発した試作機「ポリウス・ゼロ」を使用した。プリンターに取り込んだ3次元モデルを基にモルタルを複数の層に積み上げ、擁壁を製作した。
 3Dプリンターによる施工は、工場などの遠隔地で製作し、現場へ運ぶ「オフサイトプリンティング」と現場のヤード内で製作したものを施工箇所へ運ぶ「ニアサイトプリンティング」、施工箇所で直接印刷する「オンサイトプリンティング」がある。施工箇所に近ければ、輸送の手間が省けるが、天候などの影響を受けやすいなどの課題もある。
 今回の工事を例にすると施工日数は、擁壁の場合、従来工法だと68・25日必要となる計算だが、3Dプリンターを活用すると18・75日で施工できる。型枠工と足場工の作業は不要となる。笠コンクリートも58日から17・75日と大幅に施工日数を減らすことが可能だ。
 建設用3Dプリンター導入のきっかけは、吉村建設工業の吉村成一取締役によると、「土木工事、特にコンクリートの施工方法は100年前から大きく変わっていないことに驚いた。より良い方法はないかと考えていた際、樹脂用の3Dプリンターに目をつけ、建設用に挑戦している会社を探し始めた」ことだ。
 その後、ポリウスの大岡航社長とつながり、協力関係が出来上がった。大岡社長は「5年前から協力しており、直轄工事や京都府、京都市、民間工事などで10件の実績がある」と語る。京都府内での実績の多さについて、吉村取締役、大岡社長ともに「発注者が新技術への挑戦を快く受け入れてくれた」ことが大きいという。また、監理技術者を務める最年長の波多野宏紀土木部課長が34歳、平均年齢24歳の若手技術者らのチームで施工していることも新技術へ挑戦しやすい理由の一つだ。
 吉村取締役は「目指すのは作業の高速化ではなく、施工の在り方を更新することだ。最終的には完全に自動化された施工現場を実現したい。だからオンサイトプリンティングに意味がある。障壁は高いが当社が最初に現場で証明する」と力を込めた。大岡社長は、2026年度末までに現場へ量産型の「ポリウス・ワン」を100台配置することを目指しており「20年代のうちに公共工事の仕様書やガイドラインに盛り込まれ、施工方法のひとつとして確立したい」と先を見据える。
 このほか、現場ではマシンガイダンスのICT土工やICT転圧工、BIM/CIM、AR(拡張現実)による施工イメージの可視化、軌道衛星通信「Starlink」など、多くの新技術に取り組んでいる。
 工事は、京都市が発注。長さ167mの区間で道路土工や擁壁工、カルバート工、ジオテキスタイル補強土壁工、排水構造物工を実施するもの。吉村建設工業が技術提案で3Dプリンターの使用を持ちかけた。現場では、擁壁と笠コンクリートの施工に3Dプリンターを使用しており、通常はニアサイトプリンティングで施工している。擁壁は全て完成すれば全長273mとなる計画だ。工期は26年2月21日まで。進捗(しんちょく)率は87%。工事場所は京都市西京区大原野石見町。