熊本地震からさかのぼること6年前、熊本県内の建設業関係者は強い危機感を抱き、需給アンバランスの早期是正を県に請願した。公共事業予算の縮小に伴い、利益を度外視したダンピング(過度な安値受注)が横行し、下請け企業への指値受注や経営悪化を招いたからだ。隘路(あいろ)に迷い込み、自力では解決できないところまで来ていた。事態を重く見た県は是正に乗り出した。
県は2011年6月、入札契約制度を改正し、新たな発注標準(工事請負対象金額)に基づく土木工事の等級区分を再編した。発注標準9000万円以上の特Aを廃止し、上位ランクのA1(同5000万円以上)とA2(同1000万円以上5000万円未満)に分割。Cランク(同1200万円未満)とDランク(同300万円未満)は、Cランク(同300万円未満)に統合した。
制度改正に伴い、従来Aランク中上位層にとどまっていた企業が大規模工事に参入する障壁を意図的に下げた。上位ランクは十分な施工体制を持つ優良企業として育て、B以下には企業合併などによる経営強化を促した。
社会情勢の変化による建設資材・労務単価の上昇を経て発注標準は引き上げられたが、根底にある当時の思想は根付いている。4月現在、県内に本店がある土木工事の有資格者は1460社。振興局ごとに偏りはあるものの、県主導の大規模工事を担う高い施工技術を備えたA1ランクが1振興局当たり平均5.5社、地域に精通した中堅企業が主体のA2ランクが同26.9社存在し、各地域で優良企業が着実に育っていることがうかがえる。
能登半島地震では、人口減少と少子高齢化により、地域に精通する建設企業が存在しない「空白地帯」が復旧のボトルネックとなった。しかし、熊本県内にそうした空白地帯がほとんど存在しないのは、痛みを伴った制度改革に順応したことが大きな一因だ。
熊本地震から10年。熊本県建設業協会は、度重なる大規模災害の経験・対応を教訓に、いかなる災害にも対応できる体制を整えた。単なる請負業者としての枠組みを超え、県と共同運用する「災害情報共有システム」を通じた行政への被害状況報告や、協定を結ぶNHKなど報道機関への情報提供を推進。多角的な視点で地域防災を支える構えだ。
一方で、近年の災害は従来の土木の枠組みで対処するには限界を露呈しつつある。迅速で効果的な復旧・復興を成し遂げるには、土木技術の枠を超え、都市計画や情報通信、医療・福祉など多分野の専門家を束ね、災害対応の全体像を俯瞰(ふかん)する視点が不可欠だ。
隣県の大分では、分野横断的な知見を集約し、総合的な災害対応を研究する先進的な取り組みを進めている。熊本が培った「地域密着型の防災体制」に、大分が目指す「多分野連携のアプローチ」を掛け合わせること。それこそが、今後想定される未曽有の災害に立ち向かうための布石となるのではないか。
