「しなやかな成長」促す社員寮/相互理解深めるセカンドスペースに
東畑建築事務所が進めてきた社員寮「大阪草煙舎」プロジェクトが完成し、入居を始めた4月から半年が経過した。入社したての若手社員が住まいながら自らの住環境を「学び」「つくる」ことができる、才能の揺籃(ようらん)といえるこの寮の計画そのものも事務所の若手が中心となり、設計・監理を担当した。建物にあえて残された「余白」を、寮生たちの手で埋めていくことで「しなやかに育つ」ための空間が大きな特徴となっている。
◇緩やかなつながり模索
大阪草煙舎は全国に3カ所ある社員寮の一つで、神戸・摂津本山の閑静な住宅街の中にある。築後40年が経過し老朽化が進んだことから、現地建て替えが計画された。プロジェクト統括の平野尉仁大阪設計室部長によると、「もともと男子寮だったが、時代の変化に伴い、男女問わず入居できる環境が求められた。感染症対策の観点からも風呂・トイレ・キッチンの共用を見直す必要にも迫られた」と背景を説明する。
当初は「入居者のプライバシー確保」が最優先だったが、検討を進めるうちに「変化」が生まれた。かつて寮に住んだことのある社員たちへのアンケートやヒアリングを行い、共用スペースが存在することで生まれるコミュニケーションの重要性に気づく。「プライベートを確保しつつ『緩やかなつながり』を持たせる仕組み」を考えるようになったと話す。
「廊下などのコモンスペースとプライベートを切り分けない」方法を模索した結果、生まれたのが居室の「反転配置」だ。ワンルームマンションのような小型の集合住宅では通常、部屋の一番奥に窓やベランダなどの開口部が設けられる。これに対し草煙舎では、室内に光や風を取り込む開口部が玄関側に配置され「一人になって集中することも、光や風、誰かの存在を感じることのいずれも選択できる」と平野部長は狙いを明かす。
◇入居者が「余白」補う
大阪草煙舎の設計主任を担当した西辻帆波さん(設計室技師)は、その特徴として「余白」イコール未完成な部分をあえて残している点にあると説明する。RCスラブ打ち放しの天井や随所に配置されたブレースなど、つくりをあえて見せることで若い設計者たちが「建築を学ぶ場」としての機能も持つ。外構部に使用された石は、若手社員たちが自ら石材場に足を運んで選定した。運搬や設置も、社員の手で行われた。「寮生たちが建物の余白を補い、寮の成長に主体的に関わる」(西辻さん)こともプロジェクトの狙いだった。玄関前にあるバルコニーは2室で共有するつくりになっている。部屋をつなぐと同時に、フロア中央の「中庭」や共用スペースにも連続する。2階と3階にそれぞれ設けられた共用スペースは打ち合わせに使われることもあれば、お酒やつまみを持ち寄っての飲み会など、寮生同士のコミュニケーションを誘発する重要な装置でもある。
西辻さん自身も今「寮長」として大阪草煙舎の住人となった。「暮らしの中で設計者として身をもって学べることがたくさん詰まっている。周りの人たちとの関わりも大切にしながら、ここで過ごした時間が(若手社員らの)成長の糧となればうれしい」と話す。平野部長も「ヒューマンスケールのプロジェクトに一貫して取り組むことができたのは貴重な経験だった」と事業を振り返る。
◇エンゲージメントを向上
働き方改革が浸透する中、福利厚生の一環とはいえ「コスパ」「タイパ」重視の若い世代に、社員寮は訴求しないのではないか。そのような疑問を米井寛社長にぶつけたところ、「セカンドスペースとしての必要性」という言葉で、自社で社員寮を持つ意義を強調した。
東畑建築事務所の新入社員は毎年、大阪の本社で半年間にわたり研修を受ける。東京本社採用組など、遠方からの参加者を始め新入社員の多くがこの間、草煙舎に入居する。米井社長は「若い時期に時間を共有する経験は社員同士の相互理解を深め、エンゲージメントの向上にもつながる」と話す。
自身もかつて旧草煙舎で生活した経験を持つだけに、ひとしおの思い入れがある。「設計事務所の仕事はチームプレーだからこそ、同じ釜の飯を食うという経験が必ず後々に生きてくるはず」と確信を込める。
◇概要
▽建築名称=東畑建築事務所 大阪草煙舎
▽建築主=東畑建築事務所
▽建設地=神戸市東灘区甲南町4-1-5
▽用途=社員寮(寄宿舎)
▽設計監理=東畑建築事務所
▽ランドスケープ=鳳コンサルタント
▽施工=不二建設
▽規模=S造3階建て延べ658㎡
▽敷地面積=432㎡
▽設計期間=2023年8月-25年3月
▽施工期間=25年4月-26年2月


