学生時代に物理学の教科書で出会った問題が忘れられない。地球にトンネルを掘り、重力だけで東京からパリまで進むとどれくらい時間がかかるのか。答えは驚くほど短く、約40分だった◆2点間を最短で結ぶ道は直線ではない。円が転がる軌跡であるサイクロイド、この場合は最速降下曲線という。最短距離と最短時間は一致しない。自然は時に直感を裏切るのだ◆速さを求めるのは人のさがかもしれない。西九州新幹線は、国と佐賀県が幾度も本音をぶつけ合い、ようやく環境アセスメント実施で合意した。遠回りに見えた時間が次の一歩を生んだ◆未来への最短の道は案外、回り道をした先にあるのかもしれない。「重力だけを使って都市間を結ぶ最速の経路はどんな形か」。目的地をデジタル地図で調べるたびにこの問いが浮かぶ。
