【笑いと正確さの二刀流/1本のペンが現場と住民つなぐ】
「どうしてバズったんだろう」
世間からの突然の大注目。ナカノフドー建設広報担当者の顔には、喜びと戸惑いの表情が入り交じっていた。
きっかけは自社現場の週間予定表の写真だった。通行人が撮影し、SNS(交流サイト)に投稿、8万3000件もの「いいね」が付いていた。
現場の日常をユーモラスに描いた漫画風のイラストは、確かにユニークで目を引く。自社の取り組みが世間に好意的に捉えられたこと自体、とてもうれしい。ただ、なぜこんなに“いいね”が付いたのか?
手掛かりを探るため、まずは現場を訪ね、執筆者の都丸綾花さんにヒアリングすることにした。すると、糸口になりそうな、“フィクサー”らしき人物が打ち合わせ室に入ってきた。
「昔、漫画家を目指していた」という本間友也所長だ。
聞くと、毎週金曜日の午前中、都丸さんと2人で話し合い、ネタ出しをしていたそう。世代を超えた絵心をぶつけ合い、来週の“漫画風”週間予定表が決まるという。
この日は折しも金曜日。台風27号の日本接近も報じられていた。これに着想した都丸さんが、台風を擬人化したイラストをすらすらと描くと、本間所長がツッコミを入れる。「ハチマキまこうか」。表情は真剣そのもので、笑いに妥協を許さない姿勢がにじみ出ていた。
一方で、そうした話し合いの中には教育的な場面も。掘削で出てきた「岩」の表記は「杭のセメントミルク」と説明。都丸さんがさらっと書いた「残土搬出」には、「違う。その日からは、一般残土から汚泥に変わる。だからトラックは産業廃棄物用のダンプになる」と指摘。都丸さんにルールや管理ポイントを正確に伝える。
本間所長によると、若手教育も兼ねた時間になっているという。笑いの追求と仕事の正確な議論で、漫画風イラストの原案が出来上がっていく。
小一時間の打ち合わせ終了後、都丸さんが現場の外に足を運ぶ。スマートフォン片手にラフスケッチを見ながら、サインペンでさらさらと週間予定表に描き始める。
その後ろ姿に、通りがかりの男性が声を掛けた。「よく見てるよ」
内と外を隔てるフラットパネルに囲われた工事現場。背伸びをしても、その中で何をしているか外からは見えない。近隣住民は知る機会が限られているのと同様に、一般社会もまた、仮囲いの中を知る由もない。現場と社会の意思疎通は、古くからある課題でもあり、これを打開できれば業界の社会周知につながり、現場の魅力に触れることで人材確保のきっかけになる可能性を秘めている。
いま“1本のペン”が、新しい未来図を描き始めている。
(綾部康一)
