そこが聞きたい・戸田建設イノベーション推進統轄部新技術・事業化推進部部長 黒瀬義機氏 | 建設通信新聞Digital

5月19日 日曜日

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そこが聞きたい・戸田建設イノベーション推進統轄部新技術・事業化推進部部長 黒瀬義機氏

【ロボット共生に注力する狙いは?/建設受注につなげる】
 あらゆる業界で現場の担い手不足が深刻化する中、戸田建設は、搬送、掃除、警備などの機能を持つサービスロボットが当たり前に活用される社会の到来を見据えた取り組みを加速している。2023年度の実証実験では、複数ロボットの群管理などを実現した。ロボットとヒトが共生できる環境整備に向けて経済産業省が主導する基準づくりにも積極的に関与する。事業を通じて建設受注につなげる狙いがある。担当する黒瀬義機イノベーション推進統轄部新技術・事業化推進部部長に今後の戦略を聞いた。 同社は、ロボットとヒトの最適な共生空間を創造するビジョン『ロボットフレンドリービルディングデザイン』を掲げ、この分野のリーディングカンパニーを目指している。
 そもそも、ロボットを活用した取り組みを始めるに至った理由は、数年前にさかのぼるという。同社が建設現場用に開発した「ウェーブガイドLANシステム」がロボット関連企業の目にとまった。
 単管パイプと電波を放射するアンテナユニットを接続して高さ方向に敷設することで、LANケーブルなしで現場内に安価に通信環境を構築できる技術だが、ビル内でロボット活用の範囲を広げる上で欠かせないエレベーター内の通信環境構築にも使えると見込まれたのだ。
 そこで同社は、経産省が主導するRRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)に参加し、徐々に活動を本格化する。22年ごろから検討を加速し、現在に至る戦略を決定した。
 黒瀬氏は「清掃業などで担い手不足が進む中、ロボットを導入しやすい『ロボットフレンドリー』の知見を蓄えることは今後の差別化要因になる」と確信したという。
 実はロボットそのものを開発するという選択肢もあったが、激しさを増す技術開発競争に投資するのではなく、あえてロボットを持たない戦略をとった。「ロボット開発会社にとって魅力的な存在になることで、一番良い会社と組める」と考えた。
 その後、RRIの活動を一部引き継ぐ形で22年9月に設立されたRFA(ロボットフレンドリー施設推進機構)には発足当時から参画。黒瀬氏はRFAの幹部として、基準づくりにも積極的に関与する立場としても活動する。ゼネコンのネットワーク力などを生かしながら、ロボット開発やシステム開発会社などとの関係性を強化し、自らがハブとなりながらパートナー企業の輪を広げた。
 23年度には、ロボットフレンドリービルディングデザインの実現に向け「ロボットとヒトのエレベーター同乗連携」「ロボットとセキュリティー扉の連携」「ロボットの群管理及びヒトのエレベーター同乗連携」の三つの実証実験をパートナー企業などとともに成功させた。
 黒瀬氏は「この業界で全体をコーディネートできる人材は少ない。当社は実証実験の知見などを持つことで、そのポジションを担える」と自信をのぞかせる。
 これまでの活動成果が実を結び、大型の業務ビルや製造工場、病院などへのサービスロボット導入に向けた相談が複数寄せられている。その先の建設受注につなげるという当初の戦略が実現しつつあるのだ。
 今年秋に完成する新社屋「TODA BUILDING」もロボットフレンドリーなオフィスビル環境とする計画だ。黒瀬氏は「TODA BUILDINGをロボットとヒトの共存に向けたルールづくりのショーケースにしたい」と意気込む。将来を見据え、社会全体でロボット活用が進む仕掛けも考えており、機運醸成の取り組みにも力を注ぐ。
(くろせ・よしき)