東京大学で建築学を教え、現在は神戸芸術工科大学学長を務める松村秀一氏が、次世代に贈る建築入門を岩波ジュニア新書から上梓した。研究の道に入って約50年の間に学び、理解してきた建築の魅力を、これから人生の進路を決める高校生や中学生などの次世代に伝える新感覚の入門書となる。
前書きで、世間一般の建築に対する認識を「とても身近でありながら遙(はる)か遠いところにあるように朧(おぼろ)げ」と端的に説明する。「どこであろうと、いつであろうと、人は建築を造り、その中で生まれ、育ち、学び、働き、祈り、休み、命をまっとうする。建築と関係のない人などいたためしがない」ほど重要であるにもかかわらず、多くの人は木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造の違いがあることや、ゼネコン、設計事務所、工務店の何が違うのか分からない。現場で働く人はどんな職種でも「大工さん」と呼んでしまう。「『では一体何を知っているのですか』と尋ねたくなるぐらい人は建築のことを知らない」と建設業界が根本的に抱える課題を指摘する。
それゆえ、普通に暮らしていてはなかなか知ることのできない“建築の正体”を「思い切って見に行こう」と提案する。本書を通じて知られざる建築の魅力を伝えることで、サブタイトルの「〈自分でつくる〉を取り戻せ」に込めた、建築とおもしろく付き合い人生をより豊かにするポイントをひも解く。
著者は近年、国土交通省建築BIM推進会議、団地再生支援協会、建築の有り様を模索するHEAD研究会の代表を務めるなど、さまざまな角度で建築の在り方を考察してきた。出版社から声が掛かったとき、「約50年で建築もそれを取り巻く状況も大きく変わってしまった。学生、初学者、一般に伝える何かまとまったものを書くのに良いタイミングと直感した」という。
生活の中のリアルな建築に向き合い続け、その姿を誰にでも見えるようにすることは、「実は同じように朧げな『世間』がくっきり見えることにつながる」と建築を知るもう一つの意味を挙げる。社会人を含め多くの人に読んでほしい一冊。(岩波ジュニア新書。880円+税)
