学校施設改修設計で信州大ら/最適案を高速・自動選定/コスト、省エネ感染症対策など多角的に解析 | 建設通信新聞Digital

7月17日 木曜日

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学校施設改修設計で信州大ら/最適案を高速・自動選定/コスト、省エネ感染症対策など多角的に解析

3社が提供するソフトの連成解析により、最適な改修設計案を提案する
 信州大学工学部建築学科中谷岳史研究室、IDAJ(横浜市)、クアトロ(東京都目黒区)、アドバンスドナレッジ研究所(同台東区)は、「学校施設改修設計の最適化シミュレーションシステム」を開発した。老朽化が進む学校施設は改修工事の際、熱快適性、省エネルギー化、省コスト化、熱中症や感染症対策、BCP(事業継続計画)などのさまざまな要素に対応する必要があり、それらの「多目的最適化」が求められる。3社が提供するソフトの連成解析により、データを多角的に検証して効率的かつ高速で改修設計案の最適解を選定する。 学校施設は公共施設全体の床面積の3割を占め、築30年以上が7割に達する。文部科学省は、大規模改修により学校施設の目標耐用年数を80年に延長する方針で、工事費は30年で30兆円を試算する。改修需要が高まる一方で、中谷助教は「エアコンを使うと涼しくなるが電気代とトレードオフの関係にある。熱環境や省エネ化、コストダウンなどのニーズに対し、設計者は何を優先順位にして改修すればいいのか判断しあぐねているのが実情だ」と指摘する。
 そのため、公立学校の体育館をモデルケースに断熱改修の熱的快適性、エネルギー消費量、コストを多角的に解析し、AI(人工知能)も活用して最適な設計案を導き出すシステムを開発した。具体的には、IDAJの多目的ロバスト設計最適化支援ツール「modeFRONTIER(モードフロンティア)」の全体制御機能と最適解選定機能、アドバンスドナレッジ研究所の「FlowDesigner(フローデザイナー)」の熱流体解析による空間全体の温熱分布の算出、クアトロのエネルギーシステム解析ソフト「TRNSYS(トランシス)」の外皮熱負荷の算出などを組み合わせたシミュレーションシステムを構築した。
 モードフロンティアは、多くの最適化アルゴリズムを活用し、コスト条件に応じた壁、床、窓の断熱化の最適案などを自動計算する。そこから得られた外皮・窓条件をトランシス、熱的境界条件をフローデザイナーに出力し、解析結果をモードフロンティアに入力する作業を自動化する。
 今回は、改修コストと、体育館で小学生が運動する際に熱中症にならない発汗量を閾値(しきいち)とし、窓や壁の断熱性能を変数にして各システムを一気通貫で解析する仕組みを構築した。例えば熱環境の条件を満たしながらどこまで工事費を下げられるか検証し、最適解を導き出す。「気象の専門家だけでなく建築サイドの知見も熱中症対策に生かせる効果もある」と指摘する。
 また、同じ空調能力でも排気口や換気口の位置、レイアウトで室内温度は2、3度変わる。一般的に1度変わると空調コストは約10%変わるため、ランニングコストに換算すると膨大な費用になる。学校体育館以外にも、天井が高い工場、倉庫など環境設計が難しい施設や、新築のライフサイクルコストの算定など多様なニーズに対応する。自治体が保有する学校施設の維持管理の最適化の相談にも応じる考えだ。