JR東日本 執行役員建設工事部長 井料青海氏に聞く | 建設通信新聞Digital

8月8日 金曜日

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JR東日本 執行役員建設工事部長 井料青海氏に聞く

【業界全体で使命理解/発注者として環境整備が義務】
 JR東日本が2026年7月に全社的な大規模組織再編を控える中で、建設部門を率いる建設工事部長に井料青海氏が6月20日付で就いた。2000人規模のインハウスエンジニアを抱える鉄道工事の主要発注者として、建設業界全体の課題を念頭に置き、「建設部門や業界の使命を理解してエンゲージメントの向上につなげる必要がある」と語る。建設部門の今後の展開や組織再編の考え方などを聞いた。 建設業界の最大の課題である担い手不足や働き方改革に対し、「建設業全体のエンゲージメントを高めるために、業界としての使命・役割をしっかりと認識することと、処遇・休日などの労働環境の改善を進めることが2本柱だ。それに加えて、効率化・省人化を図ることが大切になってくる」とまず口にする。
 JR東日本としての使命は、新たなグループ経営ビジョン『勇翔2034』で理念に掲げた『すべての人の心豊かな生活』を実現することだ。この中で建設部門は、「例えば、羽田空港アクセス線は、工事中の東山手ルートのほか、将来的には西山手ルートや臨海部ルートなど全方位のアクセスを見据えている。品川、渋谷、新宿、東京の大規模ターミナル改良の推進や、中野、田町、浜松町、大井町、松戸、四谷などは駅改良を通じたエリアの魅力向上を進めており、上野や池袋にも問題意識を持っている。これらの事業は首都・東京の評価に直結し、ひいては世界における東京の位置付けにも影響を与える。こうした役割を、建設会社や工事に従事する職人も含めて理解することが、業界全体のエンゲージメント向上につながる」と強調する。
 また、前職の秋田支社長としての経験から、地方にも目を向け、「特に地方では、国鉄以来使用している構造物の更新が必要な場合もある。秋田や山形の新幹線のトンネルについても協議を積極的に進めたい」と、手掛けるべき事業は山積している。
 処遇や労働環境の改善も「発注者として、適正な工事費の設定や環境整備をする義務がある」と認識している。なかでも工事の安全は、これまでと変わらず最重要命題だ。「安全に対する意識は、いったん緩むと取り返しがつかなくなる。発注者、元請け、協力会社それぞれがコミュニケーションをとって取り組むことを非常に大事にしている」と力を込める。
 軸となる効率化の核となるのはBIMの活用だ。「調査、設計、施工、維持管理まで一気通貫で情報を共有するプラットフォームの整備を進めている」とし、JR東日本が開発した「TRANCITY」も、JR東日本グループ関連のスタートアップ(新興企業)であるCalta(カルタ)とも連携し、普及に力を入れる。ただ、「インハウスエンジニアとして、経験やノウハウを駆使して、工期短縮やコストダウン、鉄道利用者の負担軽減の方策を考えられる技術者の育成は引き続き柱であり続ける。工学博士の取得や工事の課題を解決するための技術開発など構造系の技術も非常に重要で、今後も追求する」と伝統的な技術力の継承をないがしろにする考えはない。
 こうした中で、同社は26年7月に12支社を36事業本部にする大規模な組織再編を予定している。建設部門では、東京、東北、上信越の建設プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)が、地方組織という位置付けから事業執行部門になり、建設工事部は「建設エンジニアリング部」に名称を変えてグループ戦略に特化した役割を担う。「詳細な役割分担をこれから1年かけて議論することになる。例えば、さまざまな建設プロジェクトの計画立案や技術戦略/DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略などは、建設エンジニアリング部が担うのではないか」と見通す。
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 (いりょう・おおみ)1993年3月東大大学院工学系研究科土木工学専攻修了後、同年4月JR東日本入社。2018年6月総合企画本部経営企画部次長、20年6月建設工事部担当部長、22年6月執行役員秋田支社長を経て現職。東京都出身、58歳。