【価値創出が本番へ/シナジー最大化が第一】
高付加価値化、DX(デジタルトランスフォーメーション)化--。前田建設を中心に数々の改革を進めるインフロニア・ホールディングス(HD)の2025年3月期決算は売上高が過去最高を記録し、26年3月期は売上高に加え、事業利益も過去最高を見込む。ただ、市場からの評価は意外にも高まっていない。大手、準大手ゼネコンの株価が上場来高値やそれに近い水準にあるのに対して、インフロニアHDは過去最高値から15%程度低い。上場してからの期間など諸条件が異なるため単純な比較はできないが、市場は冷静だ。
足元の土木、建築事業の好調さはインフロニアHDだけでなく業界全体に共通する。株価推移の背景にあると見られるのは6日に開始した三井住友建設に対する株式公開買い付け(TOB)だ。24年1月に子会社化した日本風力開発(JWD)に続く、大型の買収となる。約2000億円のJWDの買収額には及ばないが、それでも約940億円を見込む大きな投資だ。M&A(企業の合併・買収)に詳しい専門家は「建設業では長らく1+1=2にならないといわれてきた。株式市場は三井住友建設へのTOBの行く末を見極めている部分もあるだろう」と株価の推移の要因を分析する。
インフロニアHDのM&A戦略を巡っては22年の東洋建設を巡るTOBも市場の評価に影響している可能性がある。海洋土木分野でのシナジーを期待していたが、TOBの不成立により、その関係は持ち分法適用会社にとどまった。結果として、両社はたもとを分かち、今年12月下旬に株式売却と提携解消を実施すると発表した。この経緯から市場は今回の三井住友建設へのTOBについても、その成否やシナジーの実現性を慎重に見極めていると言えるだろう。
5月のTOB発表時に開催したアナリスト向け説明会で岐部一誠社長は「今回も同様に想定外の可能性が完全に排除できるわけではない。ただし、精緻なバリエーション(企業価値評価)を行っており、安易に価格を引き上げることは現時点では考えていない」とのスタンスを説明。その上で、「両社(前田建設と三井住友建設)が協力し合うことで、単なる1+1=2ではなく、それ以上の価値を創出し、受注確率や市場シェア拡大につなげることができる。ホールディングスとして、このシナジーを最大化することが重要な第一歩だと捉えている」と力強く答えた。
確かに、インフロニアHDが差別化策として注力するインフラ運営事業や再生可能エネルギー事業の利益貢献の本格化はこれからであり、三井住友建設に対するTOBが予定どおり成立した場合の業績へのフル貢献は26年度から。さらに、高付加価値化、DX化が利益へつながるのも25年度以降が本番と言える。人口減少、気候変動、施設の老朽化などインフラや都市が抱える課題に対するニーズは加速度的に高まっており、それはインフロニアHDが描く戦略に合致している。
そして、その必要性の情報発信も従来の業界のそれとは一味違う。業界でおなじみのいわゆるBtoBを前提としたアピールではなく、メジャーリーグの大谷翔平選手の試合での広告掲出やジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)とのパートナーシップなど、BtoCとして市民に直接届く形でインフラの重要性を発信し続けている。
社会が変革を必要としている時に改革者が現れる。インフロニアHDの変革が結実するかどうかはこの数年が岐路となるのかもしれない。岐部社長が会見の最後に話す「インフロニアHDの今後にご期待ください」という言葉。まさにそのとおり、業界の既成概念を打破する新たな奔流から目が離せない。
(西山和輝)
高付加価値化、DX(デジタルトランスフォーメーション)化--。前田建設を中心に数々の改革を進めるインフロニア・ホールディングス(HD)の2025年3月期決算は売上高が過去最高を記録し、26年3月期は売上高に加え、事業利益も過去最高を見込む。ただ、市場からの評価は意外にも高まっていない。大手、準大手ゼネコンの株価が上場来高値やそれに近い水準にあるのに対して、インフロニアHDは過去最高値から15%程度低い。上場してからの期間など諸条件が異なるため単純な比較はできないが、市場は冷静だ。
足元の土木、建築事業の好調さはインフロニアHDだけでなく業界全体に共通する。株価推移の背景にあると見られるのは6日に開始した三井住友建設に対する株式公開買い付け(TOB)だ。24年1月に子会社化した日本風力開発(JWD)に続く、大型の買収となる。約2000億円のJWDの買収額には及ばないが、それでも約940億円を見込む大きな投資だ。M&A(企業の合併・買収)に詳しい専門家は「建設業では長らく1+1=2にならないといわれてきた。株式市場は三井住友建設へのTOBの行く末を見極めている部分もあるだろう」と株価の推移の要因を分析する。
インフロニアHDのM&A戦略を巡っては22年の東洋建設を巡るTOBも市場の評価に影響している可能性がある。海洋土木分野でのシナジーを期待していたが、TOBの不成立により、その関係は持ち分法適用会社にとどまった。結果として、両社はたもとを分かち、今年12月下旬に株式売却と提携解消を実施すると発表した。この経緯から市場は今回の三井住友建設へのTOBについても、その成否やシナジーの実現性を慎重に見極めていると言えるだろう。
5月のTOB発表時に開催したアナリスト向け説明会で岐部一誠社長は「今回も同様に想定外の可能性が完全に排除できるわけではない。ただし、精緻なバリエーション(企業価値評価)を行っており、安易に価格を引き上げることは現時点では考えていない」とのスタンスを説明。その上で、「両社(前田建設と三井住友建設)が協力し合うことで、単なる1+1=2ではなく、それ以上の価値を創出し、受注確率や市場シェア拡大につなげることができる。ホールディングスとして、このシナジーを最大化することが重要な第一歩だと捉えている」と力強く答えた。
確かに、インフロニアHDが差別化策として注力するインフラ運営事業や再生可能エネルギー事業の利益貢献の本格化はこれからであり、三井住友建設に対するTOBが予定どおり成立した場合の業績へのフル貢献は26年度から。さらに、高付加価値化、DX化が利益へつながるのも25年度以降が本番と言える。人口減少、気候変動、施設の老朽化などインフラや都市が抱える課題に対するニーズは加速度的に高まっており、それはインフロニアHDが描く戦略に合致している。
そして、その必要性の情報発信も従来の業界のそれとは一味違う。業界でおなじみのいわゆるBtoBを前提としたアピールではなく、メジャーリーグの大谷翔平選手の試合での広告掲出やジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)とのパートナーシップなど、BtoCとして市民に直接届く形でインフラの重要性を発信し続けている。
社会が変革を必要としている時に改革者が現れる。インフロニアHDの変革が結実するかどうかはこの数年が岐路となるのかもしれない。岐部社長が会見の最後に話す「インフロニアHDの今後にご期待ください」という言葉。まさにそのとおり、業界の既成概念を打破する新たな奔流から目が離せない。
(西山和輝)