トップに聞く・全国鉄筋工事業協会 岩田正吾氏 | 建設通信新聞Digital

10月3日 金曜日

インタビュー

トップに聞く・全国鉄筋工事業協会 岩田正吾氏

【次世代にバトンつなぐ】
 9月に創立60周年を迎えた全国鉄筋工事業協会(全鉄筋)。日本各地に所在する48の鉄筋組合等の団体が加盟し、1500弱の鉄筋工事業者が名前を連ねる、全国の“鉄筋職人”の代弁者だ。2015年から隔年で開催する全国鉄筋技能大会「TETSU-1 GRAND PRIX」は毎回、多くの腕自慢が参加。建設業界の一大イベントに成長している。現場で汗をかいてモノをつくる、技で勝負する『職人』を、どうすれば守れるか。間近に控える周年行事、業界展望などを聞いた。 「全国の会員が結束して、一つの方向に向かっていく必要がある。このための重要なイベントになる」。開口一番、岩田会長が切り出したのは、10月1日に大阪市で開催する『創立60周年記念祝賀会』だ。岩田会長自身、コロナ禍を経て、対面の重要性を強く意識するようになったという。「やはり、周年行事はやったほうがいい」と周囲に相談すると、あうんの呼吸で開催の運びとなった。
 とはいえ「組織力を誇示するようなやり方にはしたくなかった」。“身内のみ”を招く方向で開催を調整した。
 そうした中、準備を進めるたびに実感したのが結束力の強さだった。「周りから支えられてきた。そのことを肌で感じる機会になった」と振り返る。
 周年行事の開催地となる大阪市は、大阪・関西万博のさなか。鉄筋業界も多分に漏れず、関西圏を中心に工事対応で大忙しだった。だが、周囲の声は温かく、力強かった。「やろうや、いこうや」。皆の心が一つになった。「各自が自分の“政(まつりごと)”と捉えてくれ、輪が広がっていった」と明かす。
 思いの詰まったイベントはもう間近。「私も含め、もうすぐ世代交代する会員のメモリアルに加え、次の世代にバトンをつなぐ。そんな機会にしたい」と期待を込める。
 一方、協会の今後に向けては、12月から始まる標準労務費の運用を率先して進める考えだ。「全鉄筋は専門工事業界の旗振り役として建設業の課題に積極的に立ち向かっている。こうした意識は、私だけでなく、団体会員の中にも強くある」と強調する。
 岩田会長によると、鉄筋業界の抱える課題の一つは単価の不安定さにあるという。繁閑の差で、工事単価が時価を持ち、その不安定さが賃上げの足かせになっている。こうした状況を改善するのが標準労務費との見方だ。
 「受注産業である以上、繁閑の差は避けられない。工事予算の未達リスクに対応するために、直接雇用を抑えると、外注化が進む。現実問題として重層下請け構造は完全にはなくならない。一方で、発注者は『重層下請け構造だから、工事単価が高い』との疑問を持っている。賃上げの原資は発注者側にあるため、賃金台帳を開示し、疑問を解消してもらう。その上で、工事価格を安定させ、賃上げを進める」と説明する。
 「技能者は技を持つが、その人たちを動かす術(すべ)を持つ人が技術者だ。本来、評価は同じであるべきだが、いつからか、技能者が低く評価されるようになった。これを変えていく」と力を込める。