複数路線が行き交う交通結節拠点と、飛鳥山が織りなす豊かな自然。線路の東西で異なる表情を見せる、東京都北区・王子駅の街並みが大きく変わろうとしている。区は3月に「王子駅前まちづくり整備計画実施基準」を策定し、先行的にまちづくりを進めるエリアの具体的な整備計画を示した。その内容から見えてきたのは、新庁舎などの新たに整備される都市機能と飛鳥山を掛け合わせた、同駅ならではの将来像だった。
王子の魅力について、山崎伸一まちづくり推進部王子駅周辺まちづくり担当課長は、交通結節拠点としての機能を挙げる。「JR京浜東北線、東京メトロ南北線、都電荒川線(東京さくらトラム)に加え、(駅東側のロータリーは)バス路線の始終点としての役割も担う。区内でもここまで多くの路線が近接しているところはない」
その一方で課題も山積している。山崎氏は、区を代表する街である赤羽と比較して「飲食店など商業的な魅力は劣る」と、乗降客数は多いにもかかわらず、にぎわいが少ない点を指摘する。また、駅舎や線路がまちを分断する形で配置されているため、景観の統一感や回遊性にも懸念を示す。
このような背景を踏まえて策定されたのが、約12haの「先行実施地区」を対象にした「王子駅前まちづくり整備計画実施基準」だ。地区内では、区による新庁舎建設事業や、王子駅前地区市街地再開発準備組合と住友不動産が検討を進める「王子駅前地区再開発計画」が、まちづくりをリードしている。区は、これらの事業を契機として、にぎわいの拠点を形成するとともに、山崎氏が「自然・文化・歴史の資源」と表現する、飛鳥山とのつながりを意識した空間を整備する方針だ。実施基準のコンセプトは「飛鳥山をまちなかにつなぐ」だ。有賀崇之副参事は「飛鳥山のポテンシャルがにじみ出るように、王子にしかない特徴を出したい」と語る。
飛鳥山が持つ機能は、▽台地機能▽崖線機能▽水辺機能--の三つに分類した。標高約25mの飛鳥山をイメージして、新庁舎や再開発事業による民間施設を緊急避難先とするなど「高台まちづくり」の考え方を取り入れる。また、飛鳥山の斜面を覆う樹林帯を模して、新庁舎や再開発施設の周辺にも植栽や広場を配置するほか、石神井川沿いにも親水空間を整備する方針だ。
歩行者動線の観点でも、駅とのつながりを意識したルートを整備する。新庁舎と再開発施設はデッキレベルで接続するほか、再開発施設(西街区)のデッキレベル・地上・地下をつなぐ縦動線を設けることで、JRやメトロとの乗り継ぎをより円滑にする。
もっとも、新庁舎や再開発施設の建設予定地を中心に整備計画が進む一方で、線路を横断する動線など、本当の意味で飛鳥山とまちなかを「つなぐ」施策は具体化していない。区は、王子駅の改良や、駅をまたいだ東西通路の整備などを視野に、先行実施地区に続く形で検討を進める考えだ。
現在は、駅の東西で対称的な景観が広がる王子駅。区が目指すまちづくりが実現し、飛鳥山と都市部が一つにつながったとき、このまちはどのような表情を見せるのか。都内でも類を見ない強みを生かした未来につなげるまちづくりの手腕が問われている。
