就活よりもキャリア教育早期化
人材採用で「学生の真意がつかめない」という悩みは多い。休日確保や初任給引き上げなど処遇改善に論点がいきがちだが、実際には仕事にやりがいを求める声も少なくない。福利厚生が整っていても、仕事が単調でスキルが身に付かないことを揶揄(やゆ)する“ゆるブラック”といった造語も生まれている。現役の学生は建設業への就職をどのように考えているのだろうか。今どきのキャリア観を聞いてみた。今回、取材に応じてくれたのは日本大学の宮里直也教授とその研究室に所属する大学院生の大森望由さん、末次洸介さん、田中琢也さんの3人。同大で構造設計を学び、建設業を志望している。
「建設業界に入る以上、ある程度の大変さは受け入れる覚悟がある」というのは末次さん。企業選びでのやりがいと福利厚生の重要度を割合で聞くと、「7対3くらいだ」と答えてくれた。田中さんもその回答に同意しながら、「やりがいがなくてブラック企業が一番つらい。そうした企業に入らないように自分のやりがいを模索した上で、企業選びをしている」と明かす。
その企業選びで重視されているのは“リアル”だ。大森さんはインターンシップの内容は会社によって違いがあり、働いているところを見せてもらえる企業と見せてもらえない企業があったと言い、「見せてもらえない企業では会社の雰囲気が分からない。実際に社員が働いている横でインターンシップができた企業では雰囲気を感じることができた」と明確な違いを口にする。
特に現場は重要で、「現場を見ることで働く環境を想像できる。実際に働いている職人さんとのコミュニケーションなど自分もこういうふうに仕事がしたいという実感が湧き、将来の道が定まった」(大森さん)と力説する。末次さんも「OB訪問で訪れたゼネコンの本社ビルは最新の技術がつまっていると感じた。構造なども目で見られる施設だったので行ってみて良かった」と話す。
リアルを重視する意識は現場だけでない。SNS(交流サイト)上でも同様で、インスタグラムなどで社員へのインタビューや一日の流れが紹介されていて、生の情報を知るという意味では大きいという。加えて、「雑誌などでは能動的に見なければ情報を得られないが、フォローしておけばタイムラインに流れてきたり、通知があったりするので目に付きやすい」(田中さん)と情報収集で大きな役割を果たしている。
得たい情報については「同じゼネコンと言ってもそれぞれの強みを知りたい。どのような独自技術があって、それを活用してどのように最先端の建物を建てているのか」(大森さん)、「土木や建築の比率や力を入れている分野を建築用途などの実績値で示してほしい」(末次さん)などより深い視点やデータを求める声が上がった。
教育現場と連携した「知る機会」創出を
長年大学で教鞭(きょうべん)を執り、学生の進路指導に当たってきた宮里教授は就職活動の早期化に懸念を抱く。「学部3年生の夏にはインターンシップが始まるが、大学のカリキュラムでは2年生までが基礎。学生が自分の専門分野を絞り込み、本当の興味を見極めるのはそれ以降だ。十分な専門知識を身に付ける前に就職先を決めなければならないという弊害が生じている」と指摘する。休暇などの処遇についてはどうか。宮里教授は「週休2日や残業の少なさは良くなった点ではなく『当然のベース』だ」と手厳しい。「小学生の頃から土日祝日の休みは当たり前。進んで学びに来ているはずの大学ですら、休みの日に行くと(学生の)家族に驚かれる」と苦笑いする。
こうしたギャップの解消には早期のキャリア教育が重要になると見る。「就職先の決定が専門分野の学びより先に来ているということももちろんだが、それ以前に中学や高校の段階から専攻や文系・理系の選択が決まってしまっている。多くの学生が設計事務所やゼネコンの名前すら知らないで入学してくるが、知らなければその企業はもちろん選ばれないし、専攻を決めた後で志望することが難しいケースもある。国や大学、企業が一体となって、情報を発信していく必要がある」と提言する。


