実践的な安全訓練を実施/政府主導の導入拡大支える
2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて政府が主導する風力発電の導入拡大には、電力の安定供給を支えるメンテナンス人材の確保・育成が欠かせない。30年代以降の人材不足が懸念される中、国内最大規模の訓練設備を持ち、風車メーカーや風力発電所のO&M(運用・保守)を手掛ける企業などの社員を受け入れ、国際基準に沿ったトレーニングを施す施設が福島市にある。「再生可能エネルギー先駆けの地」を目指す福島県と連携しながら、長期にわたって実施されるメンテナンスを地域産業にすべく、地元で活躍する人材の確保にも取り組んでいる。
山あいの廃校を活用した一般開放型風力発電専門トレーニング施設「FOMアカデミー」は、風力発電所作業者向け安全訓練の国際基準を定める国際非営利組織「Global Wind Organisation(GWO)」の認証施設で、2022年に開校した。地元電気設備工事会社の誠電社(福島市、渡辺誠代表取締役)が立ち上げた「ふくしま風力O&Mアソシエーション」(渡辺誠理事長)が運営する。
風力産業関連企業から受講者を募集し、1-2週間にわたり、自身や同僚の安全を守るための基礎的な知識・技術を習得する「Basic Safety Training(BST)」と、風力発電所内の複雑な環境から負傷者を救助する内容の「Advanced Rescue Training(ART)」の二つのGWOトレーニングを施している。受講者はGWOのデータベースに受講記録が登録される。有効期間は2年。
FOMアカデミーの特長の一つが、旧体育館の天井高を生かして高さ10mまで組み上げたモックアップの高所作業訓練施設である。成人男性の平均体重と同じ重さ70㎏の人形を高所から落下させて衝撃の大きさを実感させたり、人形を抱えながらの救助訓練を行うなど、実設備に近いデザインで設計しており、実践的なトレーニングが可能だ。
さらに、屋外の旧グラウンドには風車メーカー2社から払い下げられたナセルを置き、内部構造の確認や現地でのOJT(職場内訓練)と同じような体験ができる。GWOトレーニングのほか、VR(仮想現実)を使った独自の安全訓練も実施している。
GWO認証施設は国内に11カ所ある中、他の施設の立ち上げにも関わってきたトップインストラクターの吉田敏光さんは「FOMアカデミーの施設規模は日本一」と胸を張る。風車メーカーからも「世界トップクラスの施設」と高い評価を得ているという。開校から4年間の受講者数は累計で延べ約900人に上る。
企業の受講者に対して訓練を施しているほか、地元の風力産業への就職を希望する若者を増やそうと、県と連携して県内学校の見学も受け入れている。
全国の風力発電導入量は、25年12月時点で陸上5.5ギガワット、洋上0.3ギガワット。政府は、30年に陸上17.9ギガワット、洋上10ギガワット、40年に陸上35ギガワット、洋上45ギガワット、CN実現を目指す50年には陸上40ギガワット、陸上100ギガワットまで拡大させる目標を掲げる。
吉田氏は、GWOのデータベースを基に、国内のメンテナンス人材が1000人から1500人程度存在すると推計。政府の導入目標達成には倍の2000人から3000人が必要になるとみる。その上で、「メンテナンス人材は今足りているが、30年代に入ると風力発電所が爆発的に増え、間違いなく不足する。そうなれば、メンテナンスに手が回らなくなり、風力発電所の運転に支障が生じる。今後の2、3年でどこまでメンテナンス人材を増やせるかが風力産業の課題だ」と指摘する。
人材の確保に向けては、安全面だけでなく、風車メーカーごとに異なるメンテナンス方法のトレーニングも今後行う必要があるとし、「認証制度のようなものを設けながら、風車のメンテナンスを実施できるトレーニングプログラムを県と一緒に今後つくっていきたい」と力を込める。
関電工の子会社で、再エネ発電所のO&Mを手掛けるエナジーO&M(東京都墨田区)は、FOMアカデミーを外部研修先として利用している企業の一つ。
大塚豊社長は、「風力発電所のO&Mは数年前に立ち上がったばかりの新しい業界。政府が風力発電の導入を一気に伸ばすと言っているが、この分野の人材が一人前になるには5年を要する。残された時間が少ない中、その時間軸を埋めてくれているのがFOMアカデミーだ」と話し、メンテナンス人材の確保・育成に向けたトレーニング体制のさらなる拡充に大きな期待を寄せる。






