住宅の断熱改修が居住者の健康にどんな影響を与えるかについて、日本サステナブル建築協会は1月26日、「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査第5回報告会」をウェブで開いた。同報告会では、国土交通省と厚生労働省の連携事業「スマートウェルネス住宅等推進調査事業」に基づいた調査の成果から、最新の医学的エビデンス(根拠)と今後の候補研究速報が発表された。
発表では、同事業の調査・解析小委員会委員長を務めた伊香賀俊治慶大理工学部システムデザイン工学科教授を中心に、住宅の断熱改修前後で、居住者の健康にどのような差が生じるかという調査の趣旨と概要を説明した。
今回は、住宅の断熱性能を高くすると最高血圧が降下し、血圧変動が緩やかになるといった以前から報告されていた影響のほか、血中脂質と心電図異常、関節症・腰痛・骨折・ねんざ・転倒などの整形外科の疾病、子どものぜんそくなどのリスクが室温以外の要素を含めた多変量解析も含めて報告された。
血中脂質と心電図異常は、海塩渉東京工業大助教が「在宅中に低い室温にさらされている人は、高い室温の人と比べて、健康診断で血中脂質の基準値を超える人と、心電図異常の所見が出た人の割合が多かった。この割合の多さは血中脂質の場合1.6倍、心電図異常は2.1倍となった。ただ、同じ健康診断でも血糖値は有意差がなかった」とした。
整形外科の疾病では、伊香賀氏が「居間の床上1mの室温が18度未満の人は、そうでない人に比べて、関節症で通院しているか通院の経験があった確率が2.7倍となった。同様に腰痛症は2.8倍となった。
また断熱改修前に症状がなかった人の中で、居間の床近傍の温度が3度下がった人は、下がっていない人と比べて骨折・ねんざ・転倒が1.8倍悪化しやすくなった」と示した。
子どものぜんそくについては、伊香賀氏が「調査対象の中で、床近傍室温が中央値(16.1度)未満の家に住む子どもは、中央値以上の家に住む子どもより、ぜんそくの診断を受ける可能性が2倍となった」とした。
また、居間湿度と子どもの疾病について「居間湿度が60%以上の家ではアトピー性皮ふ炎と診断された子どもが多く、居間湿度が40%未満の子どもには中耳炎とアレルギー性鼻炎と診断された子どもが多い傾向にある」と述べ、「住宅の湿度も、例えば室温を低く感じて石油ストーブをたいていると湿度が上がりすぎてしまうなど、断熱改修との関係が考えられる」と指摘した。