特集・隠れた木の力シリーズ/名古屋旭学園の旭キンダーの丘幼稚園新園舎 | 建設通信新聞Digital

5月2日 金曜日

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特集・隠れた木の力シリーズ/名古屋旭学園の旭キンダーの丘幼稚園新園舎

完成済みの新園舎(左)と、2期工事中の体育館・管理棟
子どもが安心して過ごせる教室
廊下
体育館の施工時の様子
子どもの椅子や机は直しながら長く使い続けている
名古屋旭学園理事長・園長/國府谷 俊盛 氏
設計・監理担当のニコム設計室次長/藤嶋 三也 氏
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【「元気で、なかよく、たのしく」/木造が温もり、優しさを醸し出す】

 名古屋市内で90年以上、幼稚園を運営してきた名古屋旭学園が、築後54年を迎える「旭キンダーの丘幼稚園」の園舎をツーバイフォー(2×4)木造に建て替えている。「元気で、なかよく、たのしく」を教育方針に掲げる國府谷俊盛理事長・園長は、木造を選択した理由として「温かみがあり、子どもに優しいこと」をいの一番に挙げる。工期、コスト、敷地制約なども大きな理由だが、“木”そのものが子どもに与える影響への期待を抜きにしては語れない。◆名古屋旭学園理事長・園長
國府谷 俊盛 氏

  --園の教育方針は

 「『元気で、なかよく、たのしく』を創立以来のテーマにしてきた。元気は、健康であること。なかよくは、コミュニケーション力や人を大事にするということ。楽しくは、情操的な面での楽しさ。幼稚園での体育教育が珍しかった時代から体操の先生に来てもらってきた。コミュニケーション力を養うために、教員が慈しみの心を持って接すれば、子ども同士もコミュニケーション力が上がる。造形教育として、廃材を使ったものづくりなども長年続けている。長野県の蓼科には自然教育センターを保有している。創立者である祖父母の願いで整備した施設で、宿泊保育を実施し、春夏秋冬の自然を楽しめる機会をつくっている。親から離れて過ごすことで自立につながる」

  --園舎建て替えの経緯は

 「旭キンダーの丘幼稚園の施設は、完成から54年目で、老朽化と耐震の課題があり、建て替えを機に幼保連携型への移行も視野に入れて検討を始めた」

  --園舎建て替えを機に、3-5歳を対象とした幼稚園から、2歳児の保育を含む幼保連携型認定こども園に移行するとのことだが、その意図は

 「2歳児を対象とした任意の教育施設である『あさひナーサリー園』を運営してきたが、1歳児を預かるのは初めてだ。ただ、1歳児の状況は把握しており、教職員とミーティングしながら、集団で子どもを預かるための体制を整えている。1歳児も、元気に、なかよく、たのしく過ごせる環境を整えていきたい。教育施設として出発した園なので、幼稚園を続けたいという思いはある。卒園生が訪ねてきて、幼稚園に入園させたいと言われる。ただ、最近は両親共働きが増え、幼稚園の1日のスケジュールでは難しいという声も多かった。このため、保育機能がある認定こども園にすることになった。3年間は、園舎建て替えのため、園児の受け入れを意図的に減らしていたが、新園舎が完成する2025年度からは本来の園児数に戻せる。長年、茶道の授業もしており、新園舎には本格的な茶室もつくる」

  --木造を選択した理由は

 「1934年の創立時から使っていた施設は木造だった。自分も、いつも大工さんが出入りしていた幼稚園で育った。1970年代半ばころから、学校の建築でRC造が推奨されるようになり、当園もRC造となって、30-40年ほど過ごしてきた。でも、日本の風土として木造が適していると感じており、数年前から木造の幼稚園も増えてきた。温かみがあり、子どもにとって優しい素材のため、自分自身も以前から木造が良いと思っていた」
 「もう1点、大きな理由が工期の問題。補助金などの関係で工期が1年しか確保できず、1年以上になると運営が厳しくなる。敷地の問題もあった。RC造に建て替えるとなると、別の場所に仮園舎を建てて、一度園児を移す必要があった。でも、仮園舎は使用せず、しっかりした環境を子どもに提供できるようにしたかった。この条件で、ぴったり1年の工期で施工できるのが、パネル化による工期短縮が可能な2×4工法だった。1期は2024年4-9月(園舎)で、園庭に新園舎の半分を建てて、そこに子どもを移してから、2期は9-25年3月(体育館・管理棟)で既存園舎を壊して残りの園舎を建てている」

  --25年1月時点で新園舎に移って4カ月ほど経つが、感想は

 「暖房で部屋が早く暖まる。朝、登園時にもまだ前日の暖かみが残っていると感じる。RC造の時は暖まるまで時間がかかっていたが、今は暖房をつけるのを少し忘れるほどだ。9月も日中に冷房をかけていれば、次の日はそれほど暑くなかった。温度の変化が少ない。足音などの響き方も柔らかい印象を受ける。茶道のための畳敷きの部屋も整備を進めており、外の音が気にならないもの良い」

  --耐火や耐震に対する不安はなかったか

 「設計者から構造面などの説明を聞いて不安はなかった。2×4が地震に強いという印象もあったが、建設中の構造を見てRC造よりも安心だと思うようになった。耐火面も配慮されていると聞いて安心している」


【ランニングコスト抑制が魅力】
◆設計・監理担当のニコム設計室次長
藤嶋 三也 氏

 旭キンダーの丘幼稚園新園舎の設計・監理を担当したニコムの藤嶋三也設計室次長は木造2×4の良さについて、「木の温もりや柔らかさは当然として、断熱性が高く、エネルギー消費量を抑制できる点にある。エネルギー代が高くなっているが、ランニングコストを抑えられることは大きな魅力だ」と語る。これまでの木造設計の経験を踏まえ、「木造は利用者の身体的にも経済的にも良い。さらに多くの経験を積んでレベルアップし、この知識や経験を次世代に伝え、広げ、深めていきたい」と力強く語る。
 ニコムは、1995年に設立し30年、木造に限らず、S造やRC造も含め、福祉施設や老人ホーム、クリニックなどを中心に設計を手掛けてきた。2004年に日本ツーバイフォー建築協会とカナダ林産業審議会(COFI)が耐火構造の大臣認定を取得してからは木造2×4建築も設計するようになった。この20年で「毎年コンスタントに2-3件ずつの実績を積んできた」とし、自らも「いろいろな経験を積み、毎年レベルアップして次につなげていっている」と語る。
 旭キンダーの丘幼稚園新園舎は、「たて枠と壁は全て2×6の規格材(SPFディメンションランバー)を使用し、屋根はネイルプレートトラスを基本とし、一部遊戯室の屋根はシザーストラスによるボールト屋根とした。2階床は主にTJI(木質複合梁)とティンバーストランド(LSL)を使っている」と説明する。

【部材選定に工夫詰まる】

 こうした部材選定にさまざまな工夫が詰まっており、「一般的に2階床は集成材を使うことが多いが、集成材は重量が重い。トラスという方法もあるが、それではトラスの高さ分、天井高が低くなってしまう。I形のTJIであれば、重量は軽い上、高い強度を実現できる。これで11mのスパンを柱なしで飛ばせた」。幼稚園では、防音性能が重要になるが、「過去の経験を踏まえ、床や1階天井に使用する防音材には重量衝撃音や軽量衝撃音などを防ぐ材料、吸音や遮音などの機能を発揮する材料を何種類か組み合わせて採用している」と解説する。
 施工面でも「木造2×4は工程や施工法がシンプルで、職人も少なく工期が短くなる。使用する重機の規模が小さいなど、比較的安全で騒音や振動、粉じんも少ない」とメリットを挙げる。特に工期については今回、1年間という園側の強い希望をパネル化による2×4だからこそ叶えられた。

【現場との対話がカギ】

 ただ、木造2×4非住宅の施工経験がある建設会社が地方によって少ないのも事実。今回の木造構造躯体を施工した東海ビルドは、長年木造2×4の施工を担当しており、「コミュニケーションが取れる会社」というものの、それでも「木造の耐火の方法など、現場監督が分かっていても、職人まで浸透していることは少ない。設計図面に書いてもなかなか現場レベルには伝わらず、勉強会を開いてもまだ足りない」という。そのため、「できるだけ早めに現場に足を運び、現場の最前線に直接、的確なタイミングで的確な内容のアドバイスをした」と、各工種の工程の初期段階で直接、現場に施工方法などの注意点を伝えることに特に気を配った。
 こうした施工時のノウハウも含め、木造2×4のメリットの理解促進と次世代への伝承に今後も注力する考えだ。


■建築概要■

▽工事名称=(仮称)旭キンダーの丘新築工事
▽建築主=名古屋旭学園
▽設計・監理=ニコム
▽施工=杉本組、構造躯体施工=東海ビルド
▽構造=木造(ツーバイフォー工法)耐火構造
▽階数=2階建て
▽延べ面積=1789.86㎡
▽工期=2024年3月16日-25年3月15日
▽建設地=愛知県名古屋市瑞穂区田辺通3丁目18-1の一部、20の一部、21-1の一部、22-1、17-1の一部




◆カナダ林産業審議会
www.cofi.or.jp
〒105-0001東京都港区虎ノ門3-8-27 巴町アネックス2号館9階
TEL:03-5401-0533
カナダ林産業審議会(COFI)は、ツーバイフォー工法や木質トラス構造、それらに使用されるSPF材など、木造建築に関する普及・啓蒙活動を行っているカナダの非営利団体です。