【連携して『令和の大築城』推進/年度末までに全地区でマスタープラン】
「これまで以上に本省、地方防衛局、民間建設事業者との連携が求められる年になる。進むべき道をしっかりと示し、目標に向かって迷うことなく進める環境づくりに取り組む」。8月に防衛省の施設監に就任した井上主勇氏は、工事着手が本格化する主要な防衛施設の強靱化事業を『令和の大築城』と表現し、円滑な事業推進に意気込む。民間事業者との連携の在り方などについて聞いた。 自衛隊施設は、「能力発揮の基盤であり、平時は隊員の生活の基盤となる。国民の安全を一番下から支える土台であることも忘れてはならない」とした上で、強靱化事業は「有事に容易に作戦能力が喪失されないようにする極めて重要な取り組みで、隊員が士気高く任務に専念できる環境整備のためにも重要な施策だ」との認識を示す。
2025年度は、5カ年の防衛力整備計画3年目に当たり、「ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプの年として、工事着手が本格化する」。26年度予算概算要求では約1兆0636億円を要求し、25年度までの予算を加えると、5カ年計画の約8割に当たる3兆0772億円となる。最適化事業は、全国の駐屯地・基地などを283地区に分けてマスタープランを作成する。24年度までに193地区で作成に着手しており、25年度末までには全地区で作成を完了する予定だ。ECI(施工予定技術者事前協議)方式を採用する地区は、「24年度に20地区で設計業務を契約し、25年度は4地区で契約を予定している」。5カ年計画の先についても「まず集中的に5年間取り組み、その上で、想定し得なかった物価上昇や民間側の需要状況の影響も見極めていく」とする。
ただ、目下の懸念は、その極めて膨大な業務・工事量であり、「入札の不成立もかなり発生している」と明かす。「これまで防衛省の業務に携わってこなかった事業者にも今後は積極的に参加してもらえる努力をしている。建設業界の情勢を踏まえつつ、入札・契約手続きの改善や情報発信の充実などをしっかり進めていきたい」と円滑な契約に心を砕く。これまでも見積活用方式の適用拡大や見積単価事前交付、業務でのスライド条項など制度面・運用面で多彩な対策を講じてきており、契約保証の緩和なども10月から始めた。「今後も前例にとらわれず、機動的に対策を講じる」と強調する。
こうした対策は、24年に設立された防衛施設強靱化推進協会との意見交換も踏まえながら講じられてきた。同協会に対しては「意見交換会で前向きで、行政では思いつかない視点も含めて、意見を出してもらっている。協会以外の建設業界団体とのつながりを持つハブになってくれていることも非常に感謝している」と謝意を表した上で、「自衛隊施設の強靱化はその事業量だけでなく、スピード感も求められる。在日米軍施設の整備も待ったなしで、大規模なプロジェクトがめじろ押しだ。今後も業界側との意思疎通をしっかり図りたい」との姿勢だ。
特に、米国のSAME(米国軍事技術者協会)を例に挙げ、「受発注者がお互いの枠を超え、国を守るという決意の下、さまざまな取り組みをしており、非常に参考になった」とし、「国家安全保障戦略には、安全保障と経済成長の好循環を実現すると記載されている。安全保障以外の経済成長、地方経済の好循環という視点も持ちながら、民間事業者との連携強化の施策も推進したい」と力を込める。
* *
(いのうえ・かずみ)北大大学院土木工学専攻修了後、1993年4月防衛庁(現防衛省)入庁。沖縄防衛局調達部長、官房秘書課参事官、整備計画局施設整備監、官房審議官を経て、8月から現職。施設監就任時に中谷元防衛相から渡された「恕(じょ)」の文字を掲げ、「思いやりを持って業務に当たりたい」と語る。北海道出身、58歳。
「これまで以上に本省、地方防衛局、民間建設事業者との連携が求められる年になる。進むべき道をしっかりと示し、目標に向かって迷うことなく進める環境づくりに取り組む」。8月に防衛省の施設監に就任した井上主勇氏は、工事着手が本格化する主要な防衛施設の強靱化事業を『令和の大築城』と表現し、円滑な事業推進に意気込む。民間事業者との連携の在り方などについて聞いた。 自衛隊施設は、「能力発揮の基盤であり、平時は隊員の生活の基盤となる。国民の安全を一番下から支える土台であることも忘れてはならない」とした上で、強靱化事業は「有事に容易に作戦能力が喪失されないようにする極めて重要な取り組みで、隊員が士気高く任務に専念できる環境整備のためにも重要な施策だ」との認識を示す。
2025年度は、5カ年の防衛力整備計画3年目に当たり、「ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプの年として、工事着手が本格化する」。26年度予算概算要求では約1兆0636億円を要求し、25年度までの予算を加えると、5カ年計画の約8割に当たる3兆0772億円となる。最適化事業は、全国の駐屯地・基地などを283地区に分けてマスタープランを作成する。24年度までに193地区で作成に着手しており、25年度末までには全地区で作成を完了する予定だ。ECI(施工予定技術者事前協議)方式を採用する地区は、「24年度に20地区で設計業務を契約し、25年度は4地区で契約を予定している」。5カ年計画の先についても「まず集中的に5年間取り組み、その上で、想定し得なかった物価上昇や民間側の需要状況の影響も見極めていく」とする。
ただ、目下の懸念は、その極めて膨大な業務・工事量であり、「入札の不成立もかなり発生している」と明かす。「これまで防衛省の業務に携わってこなかった事業者にも今後は積極的に参加してもらえる努力をしている。建設業界の情勢を踏まえつつ、入札・契約手続きの改善や情報発信の充実などをしっかり進めていきたい」と円滑な契約に心を砕く。これまでも見積活用方式の適用拡大や見積単価事前交付、業務でのスライド条項など制度面・運用面で多彩な対策を講じてきており、契約保証の緩和なども10月から始めた。「今後も前例にとらわれず、機動的に対策を講じる」と強調する。
こうした対策は、24年に設立された防衛施設強靱化推進協会との意見交換も踏まえながら講じられてきた。同協会に対しては「意見交換会で前向きで、行政では思いつかない視点も含めて、意見を出してもらっている。協会以外の建設業界団体とのつながりを持つハブになってくれていることも非常に感謝している」と謝意を表した上で、「自衛隊施設の強靱化はその事業量だけでなく、スピード感も求められる。在日米軍施設の整備も待ったなしで、大規模なプロジェクトがめじろ押しだ。今後も業界側との意思疎通をしっかり図りたい」との姿勢だ。
特に、米国のSAME(米国軍事技術者協会)を例に挙げ、「受発注者がお互いの枠を超え、国を守るという決意の下、さまざまな取り組みをしており、非常に参考になった」とし、「国家安全保障戦略には、安全保障と経済成長の好循環を実現すると記載されている。安全保障以外の経済成長、地方経済の好循環という視点も持ちながら、民間事業者との連携強化の施策も推進したい」と力を込める。
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(いのうえ・かずみ)北大大学院土木工学専攻修了後、1993年4月防衛庁(現防衛省)入庁。沖縄防衛局調達部長、官房秘書課参事官、整備計画局施設整備監、官房審議官を経て、8月から現職。施設監就任時に中谷元防衛相から渡された「恕(じょ)」の文字を掲げ、「思いやりを持って業務に当たりたい」と語る。北海道出身、58歳。