国土交通省の水嶋智事務次官と山口祥義佐賀県知事は17日、佐賀県庁で記者会見を開き、西九州新幹線のフル規格整備に向けた環境影響評価(アセスメント)の実施などで合意した。国が新鳥栖~武雄温泉駅のフリーゲージトレイン(FGT)導入を断念して8年。「フル規格での無条件合意は受け入れられない」と主張を続けた佐賀県の態度を軟化させた背景には、国の責任の明確化と、11回に及ぶトップ同士の協議があった=1面参照。
西九州新幹線は、新幹線で在来線に乗り入れるFGTの導入を前提に計画が進められた。しかし、国は技術開発を断念し、フル規格整備へ方針転換した。県は「国が前提を覆したのに、なぜ佐賀県だけが巨額の負担や在来線の利便性低下を受け入れなければならないのか」と反発し、議論は長年停滞した。
突破口となったのは、25年10月から重ねてきた非公開協議だ。会見で水嶋事務次官は「つかみかかってやりあうかもしれないと思うほど、2人の間はバチバチだった」と振り返り、山口知事も「強いパンチを打ち合った」と表現するなど、互いの譲れない一線をぶつけ合う本音の議論が続いた。
当初は、環境アセスをどのルートで、どの幅で実施するかという「ルート議論」から始まった。しかし、国交省が現行駅を通るルートをベストと主張する一方、佐賀県内にはさまざまなルート案や懸念があり、対立が激化した。
そこで山口知事は、ルートを一度後回しにし、県の財政負担や在来線維持、地域振興などの配慮事項の議論から先に始め、これが功を奏し、最終的に特定ルートを前提としない環境アセス実施の合意に至った。
山口知事は、佐賀県が抱える難題を「複雑な方程式」と表現した。今回の合意内容は「方程式を解く画期的な係数(論点)」とも。最も象徴的だったのは財政負担だ。従来の整備新幹線の常識では、新幹線が通る佐賀県が地方負担するのが通例だ。しかし、佐賀県の地方負担に「国が一定の上限を設けるなど特別な配慮を行う」とした上で、受益を多く受ける「長崎県との共同負担」が明記された。
このほか、並行在来線は現行の経営形態維持を前提とし、新幹線が佐賀駅を通るルートとなった場合は特急・普通列車とも開業前の運行本数を確保するよう国交省がJR九州に要請することや、地域振興策として北部九州の空港の在り方検討、有明海沿岸道路や佐賀唐津道路の整備促進を合意文書に盛り込んだ。
今回の合意はフル規格整備や着工を認めたものではない。今後は地方負担の在り方や在来線対策、ルート選定など詰めるべき課題は多い。金子恭之国土交通相は21日の閣議後会見で「環境影響評価の実施に必要な準備や調整を着実に進める」と述べるとともに、佐賀県など地元への丁寧な説明を続ける考えを示した。
