工事看板の端に付いた風速計がせわしなく回る。東京港中央防波堤外側地区。新設予定のコンテナふ頭に、曇天の海風が吹き付けていた。
「風速10mを超えると作業は止めます」
入社5年目で初めての代理人現場。地盤改良工事は終盤に差し掛かっていた。クローラーが付いた巨大な機械がゆっくりと動く。特殊な長いロットで1日4本ほど縦穴を掘り、セメントミルクを流し込む。
マシンは重心が高いため、風の影響を受けやすいという。そう説明しながら、視線は看板の風速表示にチラチラと向かう。「海っぺりなんで、風が強いんですよね」。穏やかに語る表情に、小さな雨粒が当たった。
◆◇◆
東京都出身、26歳。幼い頃から野球に打ち込んできた。高校は都外の強豪校へ進学した。大学ではスポーツ科学を専攻、放課後は野球部で汗を流した。
就職活動は順調にはいかなかった。大学4年の夏を迎えて内定はなし。学内のキャリアセンターでは「体育会なら営業は?」と勧められるが、どうもしっくりこない。自分の得意って何だろう。
浮かんだのが、野球で培った続ける能力。「体を動かしながら、手に職を付けたい」と考え、建設業に進んだ。
内定はすぐに出た。ただ、あまりにトントン拍子。インターネットで業界を調べると、「キツい」「大変」と言葉が並んだ。迷いを母に打ち明けると、返ってきたのは短い言葉だった。「仕事は何だって大変でしょう」
その一言で、一歩踏み出せたという。
◆◇◆
入社直後は、戸惑いの連続だった。周囲は一回り以上年上のベテラン職人。うまく話せなかった。
距離を縮めようと毎日、喫煙所に足を運んだ。タバコは吸わないが、一言二言と言葉を交わすうち、「こわい」「気難しい」といった先入観は消えていった。
現場の合間で、特別教育、技能講習、2級土木施工管理技士などの資格を取得した。それでも、「まだまだ知らないことばかり。現場は専門用語だらけです」。
今夏には1級土木施工管理技士試験に挑む。夢は信頼される所長。「毎日が勉強です」。からっと笑った。
関連記事
-
関連記事は存在しません
