◆「次元が違う」ネズミの脅威
夜の東京・歌舞伎町で奔放に駆け回るネズミに衝撃を受け、まちづくりに及ぼす影響を取材し始めた筆者。新宿区の淺野佑介健康部衛生課長は、ネズミの脅威について「生物としての次元が違う」と表現する。
垂直移動が得意で屋内に生息するクマネズミ、どう猛な性格で土の中などをすみかとするドブネズミ、比較的体長が小さく性格もおとなしいハツカネズミ。淺野氏によると、これら3種は、野生生物の保護や生態系の維持を目的とした「鳥獣保護法」の適用除外とされている。カラスなどとは違い、許可なく駆除しても法令違反には当たらないという。
家屋への侵入を防ぐ「ネズミ返し」に代表されるように、日本人の暮らしは常にネズミの存在と隣り合わせにあったと言っても過言ではない。
同区では従来、ネズミはあくまでも生態系の一部と捉え、対策もクマネズミの家屋内への侵入を防ぐ程度にとどめてきた。
◆新宿区の対策を変えた一本の動画
しかし2023年9月、区は初めて屋外空間で活動するドブネズミの対策に予算措置を講じることとなる。引き金になったのは、動画配信サイトユーチューブに投稿された一本の動画だった。
その内容は、歌舞伎町で路地裏に置かれた弁当に、数十匹のドブネズミが群がる様子を撮影したもの。衝撃的な映像はSNS(交流サイト)などで拡散され、日々多くの人でにぎわうこのまちへのイメージが大きく損なわれかねない事態となった。
区としても対応せざるを得ず、急きょ補正予算を編成。われわれの認知しないところで対処されてきたネズミ問題が、一本の動画によって明るみに出た瞬間だった。
区は予算措置で、毒エサの設置によりドブネズミの駆除に取り組むとともに、歌舞伎町を中心とした被害状況を分析した。
その結果たどり着いた大きな原因は、「ゴミ」。建物の敷地や路上に捨てられた大量のゴミ袋が、ドブネズミのエサ場と化していたのだ。あの日、展覧会会場で目の当たりにした光景は、まさにドブネズミの繁殖を助長する現場だったことになる。
もちろん区はゴミの出し方や曜日をエリアごとにルール化しているのだが、淺野氏は「個別で回収業者と契約している飲食店は、独自のルールでゴミを出している。外国人が経営する店も多く、ゴミへの意識には差がある」と実態を説明する。
◆いたちごっこの駆除地道な対策続く
栄養状態によっては、2カ月に1度、10匹近い子どもを出産するというドブネズミ。たとえ区が個体の駆除を進めたとしても、エサとなるゴミが存在する限り根本的な解決にはつながらない。
4年目を迎えた今年は、民間業者にコンサルティングを委託してまちぐるみの取り組みを促す。細分化したエリアごとにドブネズミの発生原因を特定し、ゴミ出しルールの周知や、敷地内の巣穴を埋める作業などを進める方針だ。
淺野氏は「一朝一夕に解決する問題ではないので、地道に継続していくしかない。日々苦情が寄せられるが、一人ひとりの意識の問題だということに気付いてもらいたい」と前を向く。
区への取材を通して明らかとなった、個人のモラルとネズミ問題の深いつながり。さらに、最前線で対処に当たる害虫・害獣駆除業者に話を聞くと、近年の建設事業に潜む大きな「穴」が見えてきた。



