【和の空間】外国人観光客が求める「日本文化の体験」 建材メーカー各社が多様な提案 | 建設通信新聞Digital

5月7日 火曜日

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【和の空間】外国人観光客が求める「日本文化の体験」 建材メーカー各社が多様な提案

大建工業の提案する畳おもてを使った和の空間

 畳や障子、床の間のある「和の空間」が、五輪開催を目前にした東京のホテル・商業施設の建設ラッシュで再び注目されている。外国人観光客が求めるのは「日本文化の体験」だ。これまでのシティーホテルを日本的な空間にリニューアルするケースもあり、和風のテイストを持った建材の需要が高まっている。外国人観光客の好みをとらえたい観光業界に、建材メーカーが提案を始めた。
 「外国人旅行者の中には、畳の間に布団を敷いて寝る体験をしたい人が多いと聞いている」と大建工業の億田正則社長が話すように、同社が力を入れるのは機械すき和紙をこより状にして畳おもてにした商品だ。日本的な色合いの製品をそろえ、織りの向きで市松模様を作り出すアレンジ品もある。洋間に置き敷きもでき、和モダンの空間にも合わせられる。
 日本的な空間づくりで観光客を呼び寄せるレストランや商業施設、ホテルも多い。外国人観光客の目をひくのは、海外にはない伝統素材だ。

サンゲツの伊勢和紙を使った壁紙

 サンゲツは、ことし1月に日本的なニュアンスのある壁紙・壁装材の見本帳『エクセレクト』を出した。伝統的な日本の豪華素材を使った壁紙300点近くを掲載している。ホテルのベッドのバックボードに金箔や珪藻土(けいそうど)の壁紙を貼ることで、室内の印象ががらりと変わるなど効果を期待する。価格は高めでも、素材のインパクトで室内が一気に和のテイストになる。注文のすべり出しは好調だ。
 これらの日本的な素材に焦点が当たる中、改めて日本旅館やホテルの需要に合わせて自社製品を作り直し、建材として販売する企業も現れた。
 カネカは、自社の有機ELパネルを、和室用の間接照明として販売する。「日本的な室内明かりをうまく表現できる照明器具が少なかったことが(背景に)ある」と市場開発グループ幹部職の後藤敬氏は話す。いまの日本には、室内をなるべく隅々まで明るくするシーリングライトの照明が多いが、本来、日本では障子越しの間接的な光やあんどんなどで、必要な場所だけを照らす文化がある。設計者がそれを踏まえて室内を設計すると、合わせられる照明があまりなかった。

床の間の掛け軸を照らす障子型の照明

 そこで同社は、薄い有機ELパネルを間接照明として売り出した。土壁に埋め込んだり、ガラスの障子と和紙の奥に仕込んだりすることで、室内にやわらかい光が広がる。有機ELの特色は、光の広がり方が大きいこと。光と陰のコントラストも魅力だ。同社は日本における空間のあり方にまで踏み込んで、販売先の開拓を進める。
 一方、粘土瓦を製造する鶴弥では、製陶技術を生かして大型の陶板を使った内外壁材を開発した。素焼きのものと、釉薬(うわぐすり)をかけたものがあり、いずれも和風の空間にマッチする。京都の呉服店の壁材として採用されたが、今後、積極的に開拓したいのは、東京五輪を目前にホテルや商業施設の建設ラッシュを迎えた首都圏のホテルや商業施設だ。同社に限らず多くの企業が、視線を向ける。
 「関西・名古屋圏とは違い、関東地方は質素でおとなしい建物が好まれる文化がある」と、漆を使った建材を販売するDuco(東京都町田市)の大堀和子社長は言う。同社は華やかさ・上質さをキーワードに、職人の手による一点ものの建材を国内の産地で製造している。
 一般的には、漆や金箔(きんぱく)は扱いを間違えるとはげたり割れてしまうイメージがあるが、同社ではガラスにプライマーを塗り、漆や箔を置いて乾燥させる技法で扱いやすくした。ホテルの受付の背景や室内装飾、マンションのエントランスなどに提案している。いまは関西圏向けの販売が多い同社だが、「海外の人が注目するのは、その国にどんな文化があるかだ。東京五輪を迎えると、東京は日本文化の発信地になる。シンプルさだけでなく、自国について説明できるような装飾や建材を取り入れてみてはどうか」と大堀社長は語る。五輪を控え、これからの東京の建材市場が注目を集めている。

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