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【基礎自治体が抱える課題】道路インフラ老朽化に対応 注目を集める包括的発注モデルとは

 道路インフラの老朽化が加速度的に進む中、その過半を占める自治体管理施設で安定的かつ持続的にメンテナンスサイクルを回す仕組みづくりは喫緊の課題となっている。厳しい財政事情に加え、技術系職員が存在しない市町村も少なくない状況下にあって、奈良県田原本町が産学官共同研究の成果を踏まえて運用開始した橋梁保全でのECI方式を前提とした複数年包括的発注事業モデルは、基礎自治体が抱える課題への効果的な対応策として注目される。国土交通省が2020年度から開始した道路メンテナンス補助予算(個別予算)の支援を全国自治体でのモデルケースとして受けている、この発注モデルは、早期対策が必要な橋梁群の効率的・効果的な維持管理を実現する上で建設コンサルタントが果たす役割の大きさも浮かび上がらせている。

橋梁保全での包括的発注事業の基本的な構成


 田原本町が管理する橋梁(2m以上)は363橋あり、15年度から17年度に実施した近接目視点検では39橋が対策の必要な健全度IIIと判定された。大阪市立大学とオリエンタルコンサルタンツが同町と取り組む共同研究は、これら橋梁を含む道路ストックの効率的・効果的な維持管理を実現するため、包括的民間委託の制度設計と効果検証を目的に16年度からスタートした。

 山口隆司大阪市大大学院工学研究科教授は「一番のボリュームゾーンである基礎自治体の橋梁メンテナンスサイクルをどう回していくか。その仕組みを考えるフィールドを提供してもらい、町や建設コンサルタントの皆さんと実際に回しながら問題や課題を確認・分析し、その解決策の検討・提案と妥当性の確認もできた。これは全国でも初めてであり、すごいことだ」とその意義を強調。オリエンタルコンサルタンツの野崎秀則社長も「共同研究そのものが新たな社会価値の提供につながる」と力を込める。

13日に記者発表した(左から) 野崎社長、森町長、山口教授


 制度設計では「持続性」をキーワードに、担い手となる地元企業の育成も重要なポイントと見据えた。そのための仕掛けとして、設計段階から施工者が参画するECI方式に着目し、技術系職員が不足する基礎自治体でも活用しやすいようカスタマイズした。

田原本町仕様のECI方式の特徴


 肝となるのが高度な技術力と豊富な経験・ノウハウを持つ建設コンサルタントがその力を最大限に発揮できる3者連携の枠組みだ。施工時には設計者がCMR(コンストラクション・マネジャー)的に関与するほか、3者協議会を通じてさまざまな場面で技術協力することで発注者負担を軽減し、橋梁保全の施工経験に乏しい地元企業をサポートする。

 16年度にこの“田原本町仕様”のECI方式を自治体では全国で初めて要対策判定の3橋梁を対象に試行導入した結果、品質を確保・向上しながら工期短縮とコスト縮減を実現し、発注者負担の軽減や地元企業の育成にも寄与することを確認できた。

 その成果を踏まえ、18年度からは包括的発注に向けた制度設計へと拡張。要対策橋梁39橋を対象に、ECI方式を活用した複数年包括発注事業の導入検討を進め、19年12月に事業モデルとともに20年度から5年間を実施期間とするロードマップを示した基本方針(案)をまとめた。前半の3年間を第1期とし22橋、後半2年間の第2期で17橋に対応する。発注・契約方式は複数年基本協定+年度契約とし、設計者はプロポーザル方式、施工者は価格競争入札での選定を明記した。

16年度のECI方式試行では約47%の工期短縮効果や約29%のコスト縮減効果とともに補修工事の品質向上や発注者負担の軽減、地元企業の育成にも効果が認められた


 これに基づき、ことし7月に第1期の包括委託業務が、2巡目となる橋梁点検業務とその結果を踏まえた長寿命化修繕計画の修正、全体マネジメントを付加した形で発注され、建設技術研究所が受託した。補修工事は年明けに決定する予定だ。一貫した設計思想に基づく品質向上とECI方式活用による事業の円滑な進捗が期待されており、今後、共同研究の下部組織となるモニタリング委員会で事業の適正な進捗確認や効果検証を行っていく。

 20年度では並行して橋梁だけでなく、舗装と道路付属物を含めた道路ストック全体としての包括的発注に関する制度検討も進めている。山口教授は「どこまでを対象工種とし適切な発注ロットとするか、田原本町をフィールドに道路ネットワークを包括的に維持管理していくモデルを提示したい」と意気込みを語る。

 全国にある約72万橋梁の7割超となる約51万橋は市町村道にあり、建設後50年を経過した橋梁の割合は10年後には半数を超える。他方、町の約3割、村の約6割で橋梁保全業務に携わる土木技術者が存在せず、小規模な自治体では対応の遅れが懸念されている。人口が3万人を超える田原本町も道路ストック全般に対応する土木技術者は3人にとどまるだけに、森章浩町長は「自治体向けECI方式を用いて短期に地元業者も潤う形で橋梁を維持修繕できるメリットは大きい」とし、「他の自治体にも広げていけるように町としてもPRしていきたい」との考えを示している。

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