連載・試される建設株-成熟のその先に(上) | 建設通信新聞Digital

5月8日 木曜日

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連載・試される建設株-成熟のその先に(上)

【高まる市場からの要求】
 成熟産業である建設業界の上場企業は今、これまで以上に、変化の激しい株式市場への対応を迫られている。特に2023年3月に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を上場企業に要請したことを契機に、その流れは加速。成長の成否は、株価という“容赦ない物差し”で判断される時代に入った。金融のグローバル化が進む中、かつてのメインバンク制に依拠する経営は影を潜め、企業は株主との対話を重視せざるを得なくなっている。日増しに高まる市場からの要求に、経営者はいかに応えるべきか。識者へのインタビューを通じ、その道筋を探る。【ストラテジックキャピタル代表取締役 丸木強氏/株主は“主権者”だ】
 「一部の大企業を除いて洗練されていないという印象を持っていた」。日本におけるアクティビスト(物言う株主)投資のパイオニアであるストラテジックキャピタルの丸木強代表取締役は、かつての建設業界をこう評価する。財務担当役員ですら、「十分な専門知識を持ち合わせていないケースがあった」と振り返る。
 その上で、政策保有株式、いわゆる持ち合い株の比率が高い傾向について、「株を持つことで本当に商売がもらえるのか」と疑義を呈する。「施工能力や価格、優れた技術力で選ばれることが本質ではないか」と説く。
 このような慣習は、建設市場のパイが縮小していく中で企業の生き残りを阻む要因となる可能性がある。「市場が拡大している時代ならまだしも、縮小する中で発注者は選別を進めるだろう。『株を持っているから安心』という考えでは、今後は通用しない」と断言する。
 さらに丸木氏が忠告するのは賃貸等不動産がROE(自己資本利益率)向上の妨げになるという事実だ。最近では多くの企業がROE8%以上などを掲げる一方で、賃貸不動産の利回りは、「良くても2.8%程度」(丸木氏)にとどまる。こうした低収益資産を企業が多く保有することは、株主視点から見れば資本効率を損なうというわけだ。
 その上で「上場企業が賃貸用の不動産を保有するのは、グローバルスタンダードからも外れている。安定的な収入を期待しているのかもしれないが、投資家からの評価は上がらない」と続ける。
 ではいかにして企業は市場からの評価を獲得できるのだろうか。丸木氏は国内シェアを高めたり、海外に進出したりして成長戦略を打ち出し、それを実現するか、あるいはDX(デジタルトランスフォーメーション)や独自技術に磨きをかけるなどして「利益率を向上させていくべき」と説く。
 そして建設業界が真に市場からの評価を高めるためには、何よりも経営者自身の意識改革が不可欠であることを強調する。
 「ステークホルダーを意識するあまり、シェアホルダーをおろそかにする人が多い。経営者がよく言う『中長期的な成長』という曖昧な言葉ではなく、恒常的かつ持続的な成長を目指す必要がある」と力を込める。
 「日本では、株価がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなり、ROE2、3%程度でも経営者は変わらないが、米国ではすぐに更迭される」とも。そんな日本においても金融のグローバル化は進んでおり、株主からの要求は今後もさらに高まることが見込まれる。
 同氏が運用するファンドの9割は外国人投資家だ。自身も日々投資家からのプレッシャーにさらされているという丸木氏は次のように語る。
 「株主は“主権者”だ。これまでの日本の株主は、おとなしすぎた」

(まるき・つよし)1999年、M&Aコンサルティング(後のMACアセットマネジメント)の創業メンバーの一人として、日本初となるアクティビストファンドの運用に従事。2012年にストラテジックキャピタルを設立。同年12月からアクティビスト戦略のファンド運用を開始。東大法学部卒、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)メンバー