【建築財産をアーカイブ】
「頑張っている人たちをしっかりと底支えすることが私の役割だ」。日本建築学会の小野田泰明新会長はそう語り、黒子に徹する姿勢を示す。「日本には素晴らしい建築家や学者が数多くいる。そうした人たちを支えていけば、学会活動が地に足の着いたものとなり、再生産されていく」とし、人と人とをつなげていく橋渡し役になる考えを強調する。小野田会長に、学会運営の方針を聞いた。--注力したい取り組みを
「日本はプリツカー賞受賞者が世界最多で、非常に優れた施工者もいる。世界に誇れる居住空間や建築は非常に大きな財産だ。これまで培われてきたその財産や学会での議論の記録、提言などを整理、価値付け、アーカイブ化することが、より良い社会実現に貢献すると考えている。さらに、それを海外に発信することで、次の世代が自信を持って国際社会に向き合える地ならしをしていきたい」
「学術的な価値がある論文にもかかわらず、日本語のため海外の人に読まれていない現状がある。それを打開するため、レビュー論文の形で英語化することが求められる。優れた建築作品を学術的な意味を含めて紹介する『作品選集』を海外の人に見てもらえる取り組みも進めたい」
「また、日中韓の建築学会による建築交流国際シンポジウム・ISAIAでは、アジアの他の国にも開いていくと面白いことができるのではないかと考えている」
--若手が活躍できる建築界にするためには
「新しい試みを受け入れる風土をつくる必要がある。地方の教育機関を支援することも忘れてはいけない。現代に欠かせないデジタル分野は急速に進化しており、これに付いていける体力のある大学でなければ今の時代を生きていけない。だからこそ学会が、その分野に関する教育コンテンツを丁寧につくりながら共有していくことが求められている。地域の小さな学校であっても、デジタル教育がきちんとできるように支援していく」
--災害への対応は
「被災地に訪れ、被災者と話をすると、その人たちが大切に築いてきた風景を次代につないでいかなければ大変なことになると痛感させられる。だからこそ、復興の仕組みをつくっていかなければならない。専門家が考えたものを活用しやすいように、インターフェースをつくるところまで持っていく必要があると感じている」
「市民一人ひとりの意識も大切だ。例えば能登の例を取ると、祭りが良い役割を果たしている。祭りを行うためには役割分担が生まれる。祭りという楽しい場で、協力の仕方を学ぶ。これを日常的に行えるのは強い。非常時、市民一人ひとりが互いに助け合える。いくら防災が大事だと言っても、楽しくなければ続かない。学会大会などを通じて、市民にそうしたことを発信していきたい」
--土木学会との連携は
「活動協力に関する覚書(MOU)の一部として、タスクフォースをつくって一緒に議論するということを続けている。それぞれの強みを結集し、良い関係でコラボレーションしていくため、コミュニケーションの場をさらにつくっていきたい」
* *
(おのだ・やすあき)1986年3月東北大工学部建築学科卒。現在、東北大大学院工学研究科都市・建築学専攻教授、同大災害科学国際研究所教授。5月から日本建築学会会長。趣味は山登り、旅行。石川県出身。63年3月20日生まれ、62歳。
◆記者の目
冷静さを保ちながらも、時折熱い一面が垣間見えるのは、建築を通じて社会をより良くしたいという思いが人一倍強いからだ。若いときからフィールドワークを大切に、被災地をはじめ、数多くの現場に赴き活動してきた。その実態を直接目にしてきているからこそ、発する言葉一つひとつに重みがあり、心に響く。「実装」をキーワードに、行動に移すことを重んじる。
「頑張っている人たちをしっかりと底支えすることが私の役割だ」。日本建築学会の小野田泰明新会長はそう語り、黒子に徹する姿勢を示す。「日本には素晴らしい建築家や学者が数多くいる。そうした人たちを支えていけば、学会活動が地に足の着いたものとなり、再生産されていく」とし、人と人とをつなげていく橋渡し役になる考えを強調する。小野田会長に、学会運営の方針を聞いた。--注力したい取り組みを
「日本はプリツカー賞受賞者が世界最多で、非常に優れた施工者もいる。世界に誇れる居住空間や建築は非常に大きな財産だ。これまで培われてきたその財産や学会での議論の記録、提言などを整理、価値付け、アーカイブ化することが、より良い社会実現に貢献すると考えている。さらに、それを海外に発信することで、次の世代が自信を持って国際社会に向き合える地ならしをしていきたい」
「学術的な価値がある論文にもかかわらず、日本語のため海外の人に読まれていない現状がある。それを打開するため、レビュー論文の形で英語化することが求められる。優れた建築作品を学術的な意味を含めて紹介する『作品選集』を海外の人に見てもらえる取り組みも進めたい」
「また、日中韓の建築学会による建築交流国際シンポジウム・ISAIAでは、アジアの他の国にも開いていくと面白いことができるのではないかと考えている」
--若手が活躍できる建築界にするためには
「新しい試みを受け入れる風土をつくる必要がある。地方の教育機関を支援することも忘れてはいけない。現代に欠かせないデジタル分野は急速に進化しており、これに付いていける体力のある大学でなければ今の時代を生きていけない。だからこそ学会が、その分野に関する教育コンテンツを丁寧につくりながら共有していくことが求められている。地域の小さな学校であっても、デジタル教育がきちんとできるように支援していく」
--災害への対応は
「被災地に訪れ、被災者と話をすると、その人たちが大切に築いてきた風景を次代につないでいかなければ大変なことになると痛感させられる。だからこそ、復興の仕組みをつくっていかなければならない。専門家が考えたものを活用しやすいように、インターフェースをつくるところまで持っていく必要があると感じている」
「市民一人ひとりの意識も大切だ。例えば能登の例を取ると、祭りが良い役割を果たしている。祭りを行うためには役割分担が生まれる。祭りという楽しい場で、協力の仕方を学ぶ。これを日常的に行えるのは強い。非常時、市民一人ひとりが互いに助け合える。いくら防災が大事だと言っても、楽しくなければ続かない。学会大会などを通じて、市民にそうしたことを発信していきたい」
--土木学会との連携は
「活動協力に関する覚書(MOU)の一部として、タスクフォースをつくって一緒に議論するということを続けている。それぞれの強みを結集し、良い関係でコラボレーションしていくため、コミュニケーションの場をさらにつくっていきたい」
* *
(おのだ・やすあき)1986年3月東北大工学部建築学科卒。現在、東北大大学院工学研究科都市・建築学専攻教授、同大災害科学国際研究所教授。5月から日本建築学会会長。趣味は山登り、旅行。石川県出身。63年3月20日生まれ、62歳。
◆記者の目
冷静さを保ちながらも、時折熱い一面が垣間見えるのは、建築を通じて社会をより良くしたいという思いが人一倍強いからだ。若いときからフィールドワークを大切に、被災地をはじめ、数多くの現場に赴き活動してきた。その実態を直接目にしてきているからこそ、発する言葉一つひとつに重みがあり、心に響く。「実装」をキーワードに、行動に移すことを重んじる。