【BIM2025③】ウィルオブ・コンストラクション×大和ハウス工業×PLUS.1 | 建設通信新聞Digital

6月26日 木曜日

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【BIM2025③】ウィルオブ・コンストラクション×大和ハウス工業×PLUS.1

ウィルオブ・コンストラクション、大和ハウス工業、PLUS.1が連携し、BIM人材のキャリアパス構築に乗り出した。企業のBIM導入が進展する中で、最前線を支えるBIM人材の確保・育成は喫緊の課題でもある。 3社の取り組みはどのような枠組みか。 ウィルオブ・コンストラクションの田中謙代表取締役社長、大和ハウス工業の宮内尊彰技術本部技術戦略部技術戦略第1室長、PLUS.1の高木英一代表取締役に、その狙いや思いを聞いた。

左から高木氏、宮内氏、田中氏

専門スキルの明確化が幸せの源泉/誰もが参加できる枠組みへ

――連携のきっかけは

田中 ウィルオブ・コンストラクションで展開する施工管理技術者の派遣サービスを進める中で、企業側から「BIM」という言葉を耳にするようになった。BIMの普及に合わせ、人材不足が広がると考え、ベトナムのハノイ国立土木大学と提携し、2024年からBIM人材に特化した派遣サービスをスタートした。最初に受け入れたのが大和ハウス工業だった。事業に乗り出したものの、企業側がどのような人材を求めているかが不明確で、うまくマッチングできるか不安もあった。宮内さんに相談したところ、同じ思いを持っているというPLUS.1の高木さんを紹介してもらった。それがこのプロジェクトの出発点になった。

宮内 大和ハウス工業ではBIMの導入フェーズが施工段階に入り、現場導入が拡大する中でBIMオペレーターの確保が急務になり、ウィルオブ・コンストラクションから外国人技術者の受け入れを決めた。私自身も、BIM人材のキャリアパスを提示できれば、企業と人材の最適なマッチングが実現できると考えており、高木さんとはその枠組みについて以前から意見を交わしていた。人材を育成・提供するウィルオブ・コンストラクションと、中立的な視点からBIMのコンサルティングを展開するPLUS・1が連携すれば、最適なキャリアパスの枠組みが構築できる。大和ハウス工業としても力を貸したいと考えた。

高木 BIMは業務改革であり、「PPT」(ピープル・プロセス・テクノロジー)という三つの要素が求められる。PLUS.1はコンサルティング会社として、BIMのプロセスやテクノロジーを専門にし、ピープルの部分も人材育成の面で経験値があったが、そもそも人材を提供するネットワークを持っていない。企業と人材をつなぐキャリアマップの必要性を強く感じていたタイミングで、宮内さんから田中さんを紹介してもらった。「明確な枠組みを提示できれば、誰もが幸せになれる」という田中さんの言葉にも感銘を受け、ウィルオブ・コンストラクションと思いを一つにした。

宮内 BIMのキャリアパスが提示できれば、企業と人材の双方にメリットがある。大和ハウス工業では施工へのBIM導入が本格化する中で、BIM人材の確保が急務になっている。われわれが求める人材を適正に配置できれば、より生産効率は高まる。BIM人材のスキル定義がないため、ミスマッチが起きる可能性があった。BIM人材のキャリアパス構築は喫緊の課題であることを、3人とも強く感じていたことが、3社連携に結びついた。

――枠組みは

田中 ウィルオブ・コンストラクションがプロジェクトオーナーとなり、サポーターとして大和ハウス工業が実証の場を提供し、 そこから抽出した課題整理などをアドバイザーのPLUS・1がキャリアマップに落とし込んでいる。それを人材にインストールしていくことが当社の役割になる。

高木 企業ごとに生産の進め方や体制が異なり、求める人材のスキルも多様になっている。そこでキャリアマップではソフト操作などの基本的なスキルを1階部分とし、人材の強みや専門性などを2階部分として区分けしてスキルマップを形成している。どのような専門スキルを持つ人材であるかを示すことができれば、企業のニーズとマッチングしやすい。つまり2階部分が人材の価値になる。

宮内 企業がBIMを導入していく際、まず社内のBIM標準をつくり、誰もが使えるような枠組みを構築し、そのプロセスに合うマニュアルを整備する。難しいのはルールを押しつけてしまうことで、人材が機能しない場合もある。大和ハウス工業ではプロセスに応じて必要な人材を定義し、教育を進めてきた。それがBIM普及の原動力になったことから、より専門的な部分のスキル定義をどう位置付けるかがポイントになると考えている。

高木 企業が人材を求める際、2階部分に当たる専門スキルの定義が明確になっていないため、求める人材とのミスマッチが生まれてしまう。スキルマップづくりでは企業側のニーズを細分化し、ファミリ製作、設計、オペレーションなど企業が求める人材の専門スキルをきちんと整理している。企業と人材それぞれのニーズを取り込んだキャリアパスの枠組みができれば、企業も人材もともに成長ができる。

田中 既にスキル定義の骨子はできたが、実装するのはもう少し先になる。明確なスキル定義と評価、教育の部分を含めたトータルな枠組みとしてのスキルセットが完成すれば、これが共通言語としてどの企業でも使えるようになる。そのためにもいくつかの企業事例を踏まえてブラッシュアップすることが必要になる。大和ハウス工業を通じて構築したスキルセットをベースに、他の派遣先企業にも展開してより良い枠組みに仕上げていきたい。

3社連携の枠組み


――最適な枠組みは

田中 明確な基準で人材の能力、経験、実績などをしっかり判断、評価することが重要になる。それによって人材育成を進める際のポイントも見えてくる。何よりも大切なのは、誰もがBIMの仕事に参加できる枠組みにすることだ。

高木 BIM人材の役割は多様に広がっている。Revit操作に長けているが、マネジメント部分が苦手な人材もいれば、操作スキルはそこまで高くないが、CDE(共通データ環境)などのシステム管理やマネジメントスキルが高い人材もいる。明確なスキルマップの区分を示せば、人材の得意、不得意も見える化できる。それがBIM人材のベンチマークになる。

田中 外国人技術者はジョブホップでキャリアを積んでいくが、一つの企業で未来を描くことができれば、より満足度は上がり、定着率も高まる。これは日本人技術者も同じだ。企業側にきちんとした人材のスキルマップが整っていれば、その企業で成長していきたいという思いを持ってもらえる。

ベトナムでの教育を視察する大和ハウス工業


宮内 私は大和ハウス工業が取り組むBIMの価値を最大化する最前線がBIM人材であると考えている。オペレーターが手戻りにつながる不具合を発見する防波堤になっており、それによって組織としての失敗コストは下がり、品質や生産性の向上につながっている。いわばオペレーターはBIMを成功に導く“要”である。

高木 目標があるからこそ、人は成長していく。その過程で自分の立ち位置が分からなければ、成長への意欲を見いだせない。スキルマップが整備されることで、携わる人材の意識は大きく変わり、将来目指すべきキャリアプランも描ける。それこそが業界全体のスキルアップにつながる。

宮内 データマネジメントのスキルが強く求められる時代になり、デジタルツールを使いこなせるだけでなく、データ連携やセキュリティーの部分についても専門的なスキルをもつ人材が今後さらに必要視されるだろう。情報マネジメントの領域もスキルマップに加わってくる。そうした新たな職域や役割まで踏まえたBIMキャリアアップの構築が求められている。

田中 携帯電話がスマートフォンに変わったように、建設業界ではCADからBIMに変わりつつある。近い将来、指数関数的にBIM導入が一気に広がり、BIM人材のマーケットも大きくなる。BIMのスキルは国を越えるものであり、日本を飛び越えて海外で仕事をする流れも出てくる。日本が海外のアウトソーシング先になる未来もある。ウィルオブ・コンストラクションとしては海外のマーケットが大きくなれば、自社で育てたBIM人材に日本でなく、海外で活躍してもらう選択肢も出てくると考えている。

――導入効果は

高木 何を学べば、どうステップアップができるかというキャリアパスの道筋を見える化することは、日本のBIM普及にとって大きなインパクトになる。人材が成長していく上での選択肢が増えれば、建設業界自体の底上げにも貢献するはずだ。

宮内 最近は、隙間時間を活用した柔軟な働き方が広がっている。BIMの分野でもそうした仕事の進め方が求められる可能性もある。最前線ではBIMデータをクラウド上でリアルタイムに共同作業する流れが広がっている。3社が取り組むBIM人材のキャリアパス構築は多様な働き方にも対応できる枠組みになる。

高木 大和ハウス工業で展開した枠組みを他社にも展開すれば、A社、B社のスキルマップにも展開できる。PLUS.1としては企業と一緒に取り組めるようなBIMキャリアアップのコンソーシアム的なネットワークを作っていきたい思いもある。

田中 ウィルオブ・コンストラクションの人材派遣サービスは人材の成長を支援していくことが根幹にある。建設業界の新たな職種としてBIMの選択肢をしっかりと提示していく。施工管理の人材にBIMの選択肢も示すことで、キャリアアップの幅は大きく広がる。施工管理の技術者がBIMスキルも持つ道筋も提示できる。

宮内 大和ハウス工業は社を挙げてBIMに取り組んできた。BIM人材のキャリアパス構築は残された最後のピースとも言える。われわれの目的はBIMを導入することではなく、BIMで最大の効果を出すことである。施工現場への展開が本格化している中で、現場を支える最前線のBIM人材が不足している。当社としても3社連携の成果を活用してBIM人材の最適な配置につなげていく。

田中 ウィルオブ・コンストラクションが派遣する施工管理人材の半数は女性だが、現場を経験した人材が一度休職をしたのち、復職する際にBIMという別の選択肢も増えることが、キャリアアップ形成の面でも大切だ。もっとも重要なのは経験がなくてもBIMの仕事をしていける流れを提示することであり、それがBIMの普及にもつながる。誰もがBIMに取り組める枠組みの実現が当社の役割だ。

高木 1年前にPLUS.1を設立した際、宮内さんからBIMに取り組む人たちを笑顔にしてほしいとエールをもらった。企業と人材の思いにミスマッチが起きてしまうと、どちらもつらい思いを抱いてしまう。BIMキャリアパス構築は皆を笑顔にする取り組みに他ならない。

BIMスキルマトリックス


ウィルオブ・コンストラクション/人材派遣と業務支援で普及下支え

ウィルオブ・コンストラクションは「人材派遣」と「アウトソーシング」の両面から企業のBIMデータ活用を下支えしている。施工管理人材の派遣サービスに次ぐ新たな柱として、BIM事業を位置付けている。齋藤匠平営業本部長は「国のBIM確認申請が動き出せば、BIM人材や業務支援のニーズはさらに高まりを見せる」と手応えを口にする。

BIM人材の派遣事業は、ベトナムのハノイ国立土木大学と提携し、同社独自の人材育成プログラムで日本語とBIMのスキルを取得した卒業生などを自社の正社員として受け入れ、日本の企業に派遣する枠組みになる。現在は一期生となる同大卒業生20人に、日本在住の外国人技術者を加えた計41人が、初の受け入れ企業となった大和ハウス工業をはじめ30社もの企業で働いている。同大卒の2期生は40人、3期生は35人に達し、着実にBIM人材を増やしている。

ウィルオブ・コンストラクションのベトナム拠点がBIMと日本語を約1年間かけて教育しており、日本語能力試験では日常会話レベルのN3以上の語学力を身に付けてもらうように取り組んでいる。派遣先の企業からは「真面目で向上心があり、BIMスキルも高い」と評価する声が多く、順調なスタートを切った。

アウトソーシング事業も24年春から本格的に取り組み始めた。BIMソリューショングループの金谷亮佑氏は「企業からは人材だけでなく、BIMの関連業務を外注したいとの相談も出ていた」と事業化の背景を語る。ベトナム拠点にはPMr(プロジェクトマネージャー)3人に加え、技術者10人の体制を組み、日本企業から業務を受託している。

技術者はBIMソフトの「Revit」や「Archicad」に加え、「Rebro」も使いこなし、意匠、構造、設備の幅広いニーズに対応している。2次元図面のBIMモデル化やファミリ作成はもちろん、施工ステップや数量算出にも取り組む。「最近は設備関連のニーズが高く、施工検討の依頼も増えている」と明かす。初年度の売上高は想定を大幅に上回り、3年後には組織体制も60人まで拡大する方針だ。

現在30社にBIM人材を派遣


ウィルオブ・コンストラクションのメイン事業である施工管理技術者の派遣サービスは拡大を続けており、派遣先企業からの信頼も厚い。齋藤氏は「派遣社員の数は4年前に比べ3倍近くまで増え、着実に成長している」と強調する。売り手市場の建設業界において、採用数も順調に確保している。日本人技術者が中心だが、近年は外国人も増えており、現在はミャンマーの技術者が増加中という。BIM事業は施工管理に次ぐ新たな柱として位置付けている。

BIMの要求は多様化しており、人材派遣とアウトソーシングとも順調なスタートを切った。大和ハウス工業、PLUS・1と連携したBIM人材のキャリアパス構築は「企業と人材をつなぐ架け橋になる。それが後押しになり、人材受け入れ先も増加するだろう」と、金谷氏は考えている。

日本のBIM導入を牽引しているゼネコン各社では設計・施工案件を軸に、一貫したBIMデータ活用を実現しようと動き出している。導入フェーズは設計から施工の領域に移行している社も多く、現場のBIMデータ活用にはオペレーターの下支えが不可欠になる。齋藤氏は「現在はまだBIM人材のニーズがわれわれの想定を下回っている状況だが、いずれ需要が一気に出てくる。日本において当たり前にBIMが使われている状態になる」と確信している。そのためには「入職したBIM人材の教育体制や評価制度の整備、キャリアアップの枠組みをつくることが重要」とし、「長期的な視点でBIM人材のキャリア形成を包括的にサポートしていきたい」と語る。


PLUS.1/価値を最大化する協創ネットワーク

「ツール提供を軸としたコンサルティングでは中立的な視点からアプローチできない」。高木英一CEOは強い決意を持って2024年4月にPLUS.1を設立した。第3者性にこだわり、中立的なコンサルティングを展開する同社は、依頼内容に応じて強みをもつ企業と連携する「協創」のネットワークを着々と形成している。

その背景には、企業のBIM活用がデータを作る時代から、使う時代にシフトしている状況がある。企業からは「BIMの価値を最大化してほしい」との依頼が増え、高度な専門スキルの人材を数多く取りそろえる同社でも単独で対応することが難しい局面が多々ある。

データ基盤の分野ではファミリ製作でISO19650を認証取得した「ダイスネクスト」、システム開発ではデータ連携の部分に強みをもつ「キャパ」、設備領域では充実した専門ツールと豊富なコンサル実績をもつ「イズミコンサルティング」と協創の枠組みを形成中。人材確保・育成の観点では「ウィルオブ・コンストラクション」とも関係性を築いた。このほか定期的な情報交換を進めるパートナーも含めれば、協創のネットワークは現在15社にも達するという。

より専門的なパートナーと手を組むことで、より高度なコンサルティングを実現する。それがPLUS.1の目指す協創ネットワークだ。大島友延CCOは「われわれが全体の方向性を導き、そこで出てきた課題を整理し、最適な枠組みを実現するための協創パートナーと二人三脚でBIM導入の価値を最大化していく」と説明する。協創パートナーにとっては、逆にPLUS.1のコンサルティングスキルを学べる利点も生まれる。

高木氏は「当社のノウハウは惜しみなく出す。業務を依頼された企業はもちろん、連携していく協創パートナーに対しても同じだ。小出しにしたコンサルティングはしたくない。BIMを軸に企業、そしてパートナーとともに成長していくことが当社の成長戦略に他ならない」と力を込める。BIMの進展に伴い、ツール提供を前提とした内向きのコンサルティングの流れが広がっている。「盛り上がってきたBIMの流れを止めてしまわないように、協創の形にこだわり続ける」とつけ加える。

これまでのBIMデータ活用は、設計、施工、意匠、構造、設備など各カテゴリーの中で進んでいた。これからは設計から施工への連携、意匠と構造と設備の統合というようにフェーズ同士をつなぐ縦軸と横軸の連携が主流になる。大島氏が「データ活用は部分最適から、全体最適に移行していく」と説明するように、クラウド環境を使って関係者が一つのデータを共有し合う時代が到来している。

データ活用に向けた企業の要求は多岐にわたり、あらゆる要求に対して的確に対応する手段として協創のネットワークが機能する。高木氏は「BIM人材の確保・育成が当初から最重要課題であると考えていたが、当社1社ではどうすることもできなかっただけに、ウィルオブ・コンストラクションとの連携は大きな一歩になる」と決意をにじませる。

企業のBIM導入が拡大し、BIM人材の活動領域もまた多岐にわたる。現場を支えるオペレーターに加え、データ連携やシステム開発に取り組むエンジニア、そしてプロジェクトをコントロールするBIMマネージャーもキーマンの1人だ。それぞれの役割や職域をきちんと可視化することがBIMキャリアパス構築の狙い。「それによって将来へのキャリアプランを描けるようになり、そうした流れの定着が業界全体のスキルアップにつながる」。PLUS.1は力強く、その一歩を踏み出した。

協創ネットワークは15社にも達する



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