採用の暗黙知を形式知化する
――BIM人材の現状は
宮内 大和ハウス工業では施工段階のBIM導入が進展し、現場を支えるBIMオペレーターやコーディネーターのニーズが増加している。現在はまだ地区別にばらつきもあり、少数精鋭スタートしているが、現場単位のBIM活用がさらに進めば、現場担当者やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を含め数百人規模まで必要と試算している。
三戸 清水建設の場合、各支店が主体になり、BIMオペレーターを活用している。BIM施工図室を発足した九州支店ではBIMで施工図を描く体制に切り替え、他の支店も動き出している。九州支店では外部のBIMオペレーターを雇っているが、広島や北陸などは社員が対応しており、社内でもBIM人材の雇用状況は異なっている。
高木 企業がBIMオペレーターを採用する際、派遣会社や協力事務所などに求める人材のスキル条件を細かく提示している訳ではない。大和ハウス工業や清水建設のようにBIMに長けた人材が豊富で教育体制がしっかりしている企業であれば、雇用してから育てることも可能だが、そうした企業ばかりではない。条件設定が曖昧であるため、ミスマッチが起きてしまう。それは企業側にとっても、人材側にとっても不幸だ。
宮内 企業側にとっては希望する適切な人材を雇うことができれば、計画に沿った現場支援の体制を構築できる。今後、外部のBIMオペレーターやコーディネーターを増やす上で、的確な人材にマッチングができる枠組みを業界として整えたいと考え、PLUS・1に相談した。
高木 まだ動き出したばかりだが、当社と大和ハウス工業に、人材派遣会社のウィルオブ・コンストラクションを加えた3社で検討を始めた。BIMソフトを使いこなす操作スキルはもちろん、テンプレートやファミリなどの仕組みを理解している必要もある。建設実務の知識をどれだけ持ってるかも重要なスキルと考えている。
宮内 各企業でBIMの普及がさらに進めば、海外の技術者を雇う流れも広がってくるだろう。海外の人材も含めて、きちんと評価できるキャリアアップの枠組みが整えば、企業としても優秀な海外技術者を積極的に活用できるようになる。
高木 海外技術者の場合、日本語スキルの部分も重要になってくる。日本語能力試験で最高レベルのN1を持っていても片言しかしゃべれない人もいれば、N3レベル程度でも業務で支障なくやり取りしている人もいる。試験結果ありきでなく、実際のコミュニケーション力まで定義していきたい。宮内 経歴も人材の経験値を評価する上で重要だ。どの企業でどのような業務をしてきたか、その履歴がその人のキャリアになる。経験豊富な人材をどの企業も求めている。BIM人材としての実務経験を細かな部分まで明確化できれば、企業側も人材側もウイン・ウインになれる。企業では暗黙知として、こういう人材がほしいというイメージがある。それが形式知になっていない。暗黙知を形式知化するところから出発したい。
三戸 企業ごとに求めるBIM人材のレベルは異なる。汎用的な指標ができれば、それが次のステップとして資格制度などにもつながり、業界のスタンダードとして発展していくだろう。BIM人材のキャリアパスを描く上で、様々な企業の内情を熟知しているPLUS・1が、大和ハウス工業と連携して取り組むことは業界としても注目すべき試みになるだろう。
高木 日本のBIMは高度化し、企業は優秀なBIM人材を求めるようになっている。いままでは企業のBIM推進部門が中心に現場を支えてきた。BIM導入が進展してくると、すべての現場を支えることが難しくなる。BIM普及の基盤としても、BIM人材のキャリアパスをきちんと形づくりたい。
宮内 先月、ある米国総合建設会社の現場を視察した際、外国の若手女性技術者が現場のBIMを下支えしていた光景を目にした。このようにBIM先進国の米国では海外の優秀なBIMオペレーターやBIMコーディネーターを積極的に雇っており、それが職能としてきちんと位置付けられ、新たな雇用も生んでいる。
デジタル時代の新たな役割も登場
――BIM人材とは
三戸 現場を支えるBIMオペレーターだけでなく、ファミリやテンプレートなど社内のBIM基盤づくりを担う人材も存在感を増している。彼らはBIMマネージャーの役割として、社内のBIM導入を円滑に進める役割を担うケースもある。大手企業ではそうした人材を育成しているが、中小規模の企業では対応が難しい。BIM普及を考える上でBIMマネージャーの確保も課題になる。
高木 私自身、これまで数多くの企業に対してBIMのコンサルティングを担ってきた。導入が思うように進まず、もう一度、最初からコンサルティングを依頼してくる企業があるのも、社内でBIMを先導するマネージャー的な役割がなかなか育ってこないことも要因の1つとしてある。
三戸 当社ではデータマネジメントの人材育成に注力している。これまでBIM推進部署長はデータ作成やモデル統合の部分を担ってきたが、次のステップとしてBIMデータをどう効果的に使うか、情報をマネジメントする能力が重要になっている。最適な数量把握や検査自動化などのプログラムを組むことも含め、情報管理という視点から、彼らにはデータサイエンティストとしての資質が求められている。宮内 まさに当社もBIMデータ活用のステージに入り、新しい役割の議論を始めている。そこにはデータサイエンティストだけではなく、データエンジニアという役割も含まれてくる。しかし、日本ではその役割を当てはめる器としての職能が確立していない。新たな役割をきちんと形式化していくことが、BIM人材のキャリアパスを考える上でも重要な視点だ。
三戸 多くの企業でBIMのデータ活用が進むようになれば、BIMオペレーターの役割も変わってくる。彼らはモデル作成ではなく、データ作成という意識を持たなければいけない。つまり、自分が作っているデータを使って次に何がやれるかを思考できるようになれば、オペレーターはデータ作成者として成長でき、その究極の姿としてデータサイエンティストを目指すようになる。
――キャリアパスの出発点は
高木 日本のBIM導入ステージが引き上がり、それを支えるBIM人材の位置付けもより多様化してくる。企業が求める人材と、それに対応できる人材を的確にマッチングする上でも、キャリアパスの枠組みが急務だと考えている。人材側にとってもきちんと自らの強みを評価してくれる枠組みがあれば、しっかりと目標を持って成長の道筋を描ける。
宮内 今、BIMの新たな職能が生まれようとしていることは間違いない。それをきちんと形式化していくことがキャリアパス構築の第一歩になる。キャリアの階段をきちんと見える化することで初めて日本におけるBIM人材の基盤が整う。
三戸 IT人材とデジタル人材の違いも認識してもらいたい。通信環境やクラウド整備を担うのはIT人材であり、蓄積したデータをどう使いこなすか、その旗振り役はデジタル人材の仕事である。企業のDX戦略が加速する中で、データサイエンティストの存在感はさらに増してくるはずだ。
宮内 まさに同感だ。デジタル人材のキャリアパスを位置付けることは、彼ら若い世代が仕事をしていく上での道しるべになる。それを整えることが、われわれ世代の役割であり、使命であろう。
高木 デジタルに長けた人材が、今後のBIMデータ活用やDX戦略を支えていく。現場を支えるオペレーターやコーディネーターの位置付けも含め、BIM人材のスキルマップを提示していくことも役割と受け止めている。芽生えた新たな職能が羽ばたけるように、先頭に立ってBIMキャリアパスの枠組みを示したい。