標準化基盤の管理も不可欠に
建築BIM推進会議は「建築BIM環境整備」「BIMモデルの形状と属性情報の標準化検討」「BIMを活用した建築確認検査の実施検討」「BIMによる積算の標準化検討」「BIMの情報共有基盤の整備検討」の5つの部会で構成している。議論を進める中で共通する課題が浮き彫りになり、それを横断的に検討する場として、23年度に標準化TFと審査TFを組織した。
標準化TFではデータ連携の円滑化を目的に、データの属性情報を共通化するための基盤づくりを進めている。24年度の成果として必要な属性を集約した標準属性項目リストを作成した。これは各分野の用語を整理し、属性情報を利活用する際の辞書的な位置づけとして、必要な属性をロングリストとして列挙したものだ。
企業がBIMに取り組む際の参考としてモデルデータに入れ込むべき属性情報を洗い出し、構造化データとしてデータベース活用ができるように、データの内容を特定する先頭に明記するヘッダを構成するための「フィルターセット」の考え方も示した。
BIMモデルデータには様々な属性が入るが、利用者の目的によって、必要がない属性もある。モデルにすべての属性情報を入れる必要がないことを知ってもらうため、今後はユースケースごとにフィルターセットを提示していく方針だ。事例を増やすことで、フィルターセットも拡張することになり、企業にとってはBIMデータ基盤の構築を進める際の参考になる。
標準化TFは「意匠情報検討」「構造情報検討」「設備情報検討」「施工・製作情報検討」「データ整合チェック」「積算ユースケース」「外部データ連携」の7チームで構成。中心組織のリーダー会は11人体制で、2時間の会議を隔週のペースで開催している。各リーダーは議論した内容をそれぞれのチームに水平展開し、それぞれの成果を示す流れで進めている。24年度の会議時間はざっと1600時間を超えた。
――標準化の出発点は
大越 属性情報の項目として「幅」と表示する企業があれば、「W」と示す企業もある。このように、属性情報の用語は同じ意味であっても企業ごとに表現が異なっている。標準化TFでは用語表現を統一するのではなく、その属性にIDをしっかりと付与することを進めている。つまり、企業ごとの表現は違っても、幅やWの定義を「属性ID」として決めておけば、システム変換によって属性を統一化できる。文字表記による属性の先入観をなくすため、あえてIDという形で意味をもたない数字「GUID」(グローバル一意識別子)として定義した。現時点でGUIDは3500を超える。
高木 PLUS.1が様々な企業のBIMコンサルティングを進める中で、データ連携基盤を構築してほしいという相談は急速に高まりを見せている。企業でも属性情報の統一はその第一歩となるが、部門ごとや支店ごとに言い回しが異なっている。標準化TFの成果としてGUIDが示されたことはデータ標準化に向けた大きな一歩だろう。名称は人が見るためのラベルであり、そこを統一しても情報の統一にはならない。GUIDは属性名称でなく、属性情報である。標準化TFは情報のラベルを定義したということであり、これは各企業が進めている属性情報の表現にかかわらず、属性情報の統一を進めることができる最適な枠組みであろう。
大越 まさに企業によって属性表現が違っても、GUIDを定義しておけば、企業を越えてプロジェクト関係者の中で属性情報の統一した管理が可能になる。サブコンやメーカーは元請企業(ゼネコン)ごとに属性表現を合わせた上でモデルを提供している。GUIDが整備されればこの手間を省くことができるようになり、円滑なデータ連携が実現する。
――次のフェイズは
大越 標準化TFではユーケースを増やしてフィルターセットの拡充を進めていくが、その使い方などはあえて示さない。ユースケースもあくまで目安になることから、具体的な使い方などはPLUS.1のようなBIMコンサル会社が解説する流れになるだろう。民間サービスとして動きが盛り上がってこないと、せっかくの成果が無駄になってしまう。
高木 データベース的な視点からどう活用すれば良いか、目的をはっきりさせて取り組むことが重要になる。われわれのようなBIMコンサル会社が先頭になって橋渡しする必要がある。さらに言えばGUIDの維持管理も不可欠になるだろう。標準化のデータ基準をきちんと管理、運用する役割もわれわれが先頭に立って取り組むべきだろうと感じている。
大越 フィルターセットは、いわば個別プロジェクトに納入するBIMデータの詳細度を要件化するEIRのようなものであり、海外であればオーナーがやりたい要件をまとめていくと、それが仕様書になる。目的に応じて必要な属性の項目が明確化されるだけに、企業は自社内で進めるよりもコンサル会社などと連携して最適な枠組みを形づくることが良いだろう。
高木 GUIDの意図を間違って解釈してしまうと、企業内で進める標準化も結果的には無駄が多いものになってしまう可能性がある。逆に意図を理解していても、生産プロセス全体を見据えてしっかり分類できないと有効に使うことができない。何よりも目的をしっかりと位置づけることが出発点になる。
――標準化TFがもたらすインパクトは
大越 ゼネコンに所属する立場から言えば、サブコンやメーカーなどに対して、GUIDの使い方を求めることはない。あくまでも、こういう属性情報の入ったモデルがほしいと伝え、連携する流れになるだけに、メーカー側への指南役が今後は必要になってくだろう。
高木 標準化TFの成果は、まさにBIMデータ基盤の根幹を成す取り組みだ。ベースが整うことで、ソフトベンダーもシステム会社も対応がしやすくなり、皆でBIM普及を後押しするいろいろなサービスを展開できる。標準化TFの成果は日本のBIMステージを引き上げる大きな一歩であろう。
大越 私が所属する清水建設のリエンジニアリンググループは社内のテンプレートやマニュアルなどを作成し、それを全国の支店や現場に提供している。いわば社内の標準化TF的な役割を担っている。当社は19年にデジタルゼネコンを表明し、社を挙げてデジタル化にかじを切っている。維持管理段階にもBIMデータを活用し、その情報をフィードバックして次のプロジェクトに生かす循環の流れを構築している。そのためにも蓄積する情報は、構造化されたデータである必要がある。GUIDなど標準化TFの成果が定着すれば、プロジェクト関係者とのデータ連携もより強固になる。
高木 企業ごとに情報が蓄積されても、社会基盤の視点では意味を成さない。BIMデータは社会課題解決の基盤になると考えており、それを普及、進展させることがPLUS.1の使命と位置づけている。ゼネコン各社が同じルールでデータを蓄積することができれば、社会的にも統一されたデータ基盤となる。受注競争の差別化戦略は各社それぞれであるが、BIMデータ基盤は同じ枠組みであれば、プロジェクトに参加するサブコンやメーカーなども一緒に成長できる。そうした協調領域の部分をPLUS.1としても後押ししていきたい。
大越 実際のプロジェクトで設計者のBIMデータを施工者が引き継ぐケースはほとんど見られない。それは属性の表現が企業ごと違うため、データ連携がしにくいことが要因の1つにある。GUIDへの転換システムなどが実装されれば、BIMデータの連携は格段に向上する。標準化TFの成果は、まさにデータ流通性の根幹であり、社会基盤整備の観点でも大きなインパクトをもたらすだろう。