連載・ドローン革命 10年の航跡と針路(中) | 建設通信新聞Digital

12月12日 金曜日

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連載・ドローン革命 10年の航跡と針路(中)

ロープアクセス(左)からドローンへ
狭く暗い下水道を進む「IBIS2」
【屋内外問わず活躍/橋梁点検で高まる存在感/“八潮”契機に下水道でも】

 高度成長を支えた首都圏の大動脈をどう維持するか--。年間約4億台が通行する首都高速道路では、橋梁点検にドローンが活用されている。
 初開通から60年以上が経過した巨大道路網は、インフラの老朽化が急速に進む。半世紀を経て総延長は300㎞超まで伸びたが、うち約4割の路線が2030年には供用開始から50年以上となる。
 老朽化を受け、道路を管理する首都高速道路会社は維持・保全への新技術導入を進めている。ドローンに着目したのは15年ごろ。以来、さまざまなメーカーの機体で実証を重ね、21年から法定点検に本格導入した。
 河川部など人の立ち入りが困難な箇所にドローンで近づいて映像を撮り、画像解析から健全度を判断する。人が現地に行くのは追加の打診調査が必要な場合のみで済み、作業時間やコスト低下、事故リスク低減につながっている。
 「従来は足場やロープアクセスで点検していたが、効率は高くなかった」。池田博久点検・補修推進課高度化推進担当課長は、ドローン導入で合理化が進んだと強調する。
 同社はパトロールカーをドローンで代替する構想を描く。道路橋をルート巡回して損傷箇所を確認する「広域点検」、詳細な損傷状況を確認する「局所点検」にも活用する計画だ。念頭に置くのが首都直下地震。ドローン点検を日常化し、災害時オペレーションの実効性を高める狙いだ。
 「フェーズフリーにしておかないと、有事では使えない。有事に首都高速道路は緊急輸送路に指定され、ここを通って緊急車両が現場に向かう。いち早く道路を開かなければならない場面で、ドローンの機動力は有用だ」と期待を寄せる。
 人口密集地の側を走る首都高速道路は、国内で最も飛行制限が厳しい。そのため、「一番ハードルが高い首都高速道路で運用モデルができれば、ドローン活用の幅はさらに広がるはずだ」と力を込める。

◆危険な環境真価を発揮

 今年1月28日。地面にぽっかりと空いた大きな穴と、そこに頭から突っ込んだであろうトラックの荷台後部が、昼時のテレビ画面に映し出された。埼玉県八潮市の交差点で道路が陥没し、4tトラックが転落したのだ。
 「自分だからできることがあるのでは」。国産の点検用ドローンを製造するリベラウェアの閔弘圭社長は、夕方のニュースで事故を知った。硫化水素が充満するなど悪条件が重なって救出活動が膠着(こうちゃく)する中、自社の小型ドローンならば現場に近づけると直感した。
 同社の主力機体は、世界最小クラスの点検用ドローン「IBIS2」。独自の飛行制御システム、小さい光量でも撮影できるカメラモジュールなどを搭載し、暗所・狭小空間で安定的に飛行できる。プロペラを回すのは、鉄粉や石綿が舞う中でも止まらない強力な防じんモーター。機動力には自信があった。
 翌29日、加盟する日本UAS産業振興協議会(JUIDA)を通じて行政機関から捜索支援要請を受けた。関係各所と調整を進め、8日後の2月5日、社内のチームが現地に入る。当時はトラックの運転席が下水道管内に流れ、ドライバーの男性が見当たらない事態だった。ただ、ドローンを飛ばすと、事態は急展開する。作業開始から約30分。運転席部分がカメラ映像で確認された。
 「この一件で、ドローンで下水道内部を安全に確認できると認知された」と閔社長が話すように、ドローンは、その後に国土交通省が進めた下水道管路の全国特別重点調査でも活躍した。
 ドローンは屋外で使うもの。空を舞う性質上、広い空間を確保でき、GPS(全地球測位システム)も届かないと飛行は難しい。それが世間の常識だった。ただ、八潮市の道路陥没事故をきっかけに、屋内の狭小箇所でもドローン活用が広がり始めている。