【酒の場だから話せること/仕事依頼から経営相談まで】
現場から業界を変える--。職人同士が酒を酌み交わし語り合う交流イベント「職人酒場」が全国に広がっている。現場を知る者同士、打ち解けるのは早い。草の根の交流が、建設業界に新たなつながりを生み始めている。話題の現場を取材した。
金曜の夜、新宿。駅近くの大型ビルに大柄な男性たちが吸い寄せられるように歩いて行く。上階へ向かうエレベーターは満員。緊張した面持ちの人、がっしりしたスーツ姿の男性、足元には安全靴も。皆の目的地は『職人酒場』。話題の建設系交流イベントだ。
杯を交わしながら何でも話せる。仕事から経営相談までフラットに交流できると評判で、「うちの県でも」と各地から開催要望が寄せられる。3年余りで38都道府県を巡り、参加者は延べ7689人。2月には200回の節目を迎え、業界の人気イベントへと成長した。
この日の参加は153人。会場は、熱気に包まれた。
「全国どこでも対応できる」とエリア網の広さをアピールしていたのは、ガス工事を営むガスパル(東京都品川区、橋本俊昭社長)の川原隆行さん。目当ては木造アパート施工会社の担当者。話し掛けると「先方も探していたみたいで」と目を細めた。
プラント現場などで足場や鉄骨建て方工事を営む関口工建(茨城県神栖市、関口彰代表取締役)。関口代表の目的は協力会社探しだ。四国での工事を控え、「現地に拠点を構える会社と話ができた」と手応えを口にした。
“お相手”は四国全域でとび・土工事を手掛ける城北建設(高松市、細谷芳久代表取締役)。年明けに東京支店を開設し、協力会社を探していた。重責を担う“若旦那”の細谷勇貴さんは「仲間を見つける」と名刺交換に励んでいた。
職人さんに元気を
「最近はどの県でも『職人酒場に行きました』と言われる。本当にうれしい。やめずに続けてきてよかった」。会を運営するクラフトバンクの韓英志社長は、マッチングサイト運営の傍ら、イベントにも注力してきた。節目に際し、目にうっすら涙が浮かんだ。
今でこその人気イベントだが、道のりには苦難もあった。2022年9月の開始当時はコロナ禍。ワクチン接種は始まったものの先行きは不透明で、「職人さんの顔に元気がなかった」。思案の末、感染対策を徹底し、あえて対面イベントを立ち上げた。うたい文句は「一夜で10年付き合える元請け・協力会社が見つかる」。リスクもあったが、踏み切った。
成長の理由は「フラットに話せる場だからでは」と笑う。「純度を高めよう」と、営業目的の他業種、スポンサーは基本的に断り、1人6000円の会費で運営してきた。「正直、赤字」と苦笑するが、やめる気はない。「当初から武道館開催を目指してきた。300回は武道館を貸し切りたい」
東京・池袋の小さな居酒屋で始まった挑戦。幾多の“交差点”の先へ、道はまだ続く。
