2012年のスカイツリーの竣工以来、東京スカイツリータウンとその周辺地域は大きな変貌を遂げてきた。地域全体のまちのにぎわいづくりを目指す「ことまちプロジェクト」を進めてきた東武不動産が、地域の新たな地域活性化拠点として開発を進めていたツーバイフォー(2×4)木造耐火構造の宿泊施設『T-home景(KEI)』が2月11日に開業した。“長屋”というコンセプトを木造の施設と配置で存分に表現し、江戸時代の町の音が聞こえだしそうな空間を生み出した。広場でのイベントなどを組み合わせ、インバウンドを五感で楽しませる拠点として注目が集まる。

分棟配置で地域とのつながり生む/2×4がコスト、工期で優位性/執行役員開発事業本部企画運営部長 渡邉聡氏、開発事業本部企画運営部次長 岡崎真二氏
--東武不動産における宿泊施設事業の展開とT-homeのコンセプトは部長 「18年から、押上周辺エリアで、アパートのリノベーションによる民泊事業をスタートした。現在は『T-home』シリーズをエリア内で6施設13室展開している。アジアや欧米からの来訪客に多い、大人数で中長期間滞在する層をターゲットとし、定員4-12人部屋を用意している。和モダンで、キッチンや洗濯機など自炊ができる設備を設けている。今後は、スカイツリー周辺で、100室体制を当面の目標にしている」
--T-home景の建設経緯は
次長 「病院跡地の有効活用について相談があった際に、T-homeのコンセプトに賛同していただき、定期借地で借りることができた。敷地条件としては、より大きな建物を建てられる敷地ではあるが、宿泊施設として地域住民に迷惑をかけず、押上という町の特徴を反映した建物にしたいと考えた中で、約1750㎡の敷地に木造2階建ての長屋の建物を分棟配置して江戸の町並みを再現することになった。町のようなホテルにすることで、地域とのつながり、来訪者とのつながりが新たに生まれる拠点になれば」
--中庭風の広場のコンセプトは
次長 「T-homeは食事提供をしないホテルのため、1階部分にテナントを3区画設け、飲食店舗などを誘致する。広場が飲食店利用者のコミュニティーの場や、宿泊者の交流の場になると期待している。広場で季節ごとにイベントを開いたり、部屋のテレビで地域の飲食店を紹介するなど、ホテル敷地に地域の人を誘導しつつ、宿泊客が押上の町に繰り出したくなる仕掛けを施したい」
--木造にした理由は
次長 「耐久性、安全性、耐火性、耐震性そのほかトータルで考え、内外装だけでなく構造躯体から木造の木の温かみを感じられる建物を作りたいと思い、三井ホームの2×4を選んだ。計画段階ではさまざまな選択肢があったが、建設コスト、工期も総合的に判断した。特に1年という工期は、RC造では実現できなかった」
部長 「今回、20年の定期借地という中で、RC造では償却期間が完了できなかったが、木造なら定借期間内で収まる。そういう意味でも木造は事業収支面からも最適な選択だった」
“現代の下町”を観光資源に/路地表現のため建物は“おしゃべり”にしない/アトリエ9建築研究所 呉屋彦四郎氏
竹が風に揺れ、その影が墨色の壁に映り、時間が止まったようなノスタルジックな時間が流れる。広場に出れば、子どもが駆け回り笑い声が響き、にぎやかな世界に身を委ねる。そんなスカイツリーに続く第2の観光拠点が押上に誕生した。設計を手掛けた呉屋彦四郎氏は、丹下健三、谷口吉生の両巨匠に師事し、独立後は幼稚園・保育園や病院、ホテル、オフィスビルなど多様な建築物の設計を手掛けてきた。「建築は社会資本でなければならない」という丹下の教えを引き継ぎ、「建築物が次の世代にどう息づいていくか考えることが、非常に重要なデザインプロセスで、建ってからの建築主の顔をどう表現していくか」に重きを置いてきた。
今回の案件は、コンペで選定された。押上地区は江戸時代には木材の集積地として運河を通じて運搬する拠点であり、近代になると東武鉄道を中心とした鉄鋼・石炭の集積地へと姿を変え、近年は成田空港からのインバウンドが集まる観光要素が強い地区となった。こうした地区の特性を捉えた上で、「東武不動産の地域開発の取り組みと宿泊施設事業の考え方、定期借地という事業特性・収益構造を含めたトータルで考えた」という中で提案したのが、「“現代の下町”の生活を観光資源という社会資本にする取り組み」だった。このコンセプトから「2×4のマッシブ感、かたまり感を生かして長屋形式に配置し、その余白を路地や広場にする」という形が生まれていった。
建物構造は当初、「耐火の在来工法を考えていた」と明かす。だが、「ホテルに路地を設けると、室内のプライバシーへの配慮が必要で、利用客は昼間の滞在時間が短い特性を考えると、開口部は小さくてよい。防火地域という条件を踏まえると、2×4が適している」と考えた。黒基調の外観は、「路地に竹を植え、石を配置し、歩く人間の目線を中心にした路地空間をひたすら表現するため、建物はあまり“おしゃべり”にしないようにした」。
路地や広場に敷地を使えば、部屋のコンパクト化を求められる。一方で、グループでの宿泊を想定したホテルという要請に応える。このため、室内は「三角屋根の空間を生かして2段ベッドを配置してインテリアとしても活用しながら、ベッドの上段と下段を縦横に配置することで圧迫感を軽減した」と工夫を凝らした。
独自技術で断熱・遮音性能向上/木造・木質ホテルに期待/杭工事不要でコスト、工期に効果/三井ホーム施設・賃貸事業本部コンサルティング第二営業部営業グループ長 松本昌平氏
国内で着実に木造非住宅建築の実績を積み上げてきた三井ホーム。今回は、延べ2000㎡規模の宿泊施設を施工した。木造建築の実績を買われて基本計画段階からプロジェクトに加わった。真冬でも客室に入った瞬間に、その暖かさを実感できる。特筆すべきは、「屋根に厚さ140mmの発泡スチロールをOSB(オリエンテッド・ストランド・ボード)で挟んだダブルシールドパネル(DSP)という独自の技術を採用した。室内の空気が漏れにくく、直射日光もシャットアウトして、非常に高い保温効果を発揮する」と説明する。グラスウールを充てんした壁も併用し、「非常に気密性に優れた2×4工法と組み合わせることで、真冬でも実感できるほどの暖かさを感じられる」。エアコンの効率が上がり、「ライフサイクルコストの面でも高い効果を発揮する」。
宿泊施設では、隣戸間や上下階の音も、施設の評判の善しあしに直結する問題になる。このため「特殊な遮音材を床の仕上げ材の下に敷く独自開発の『ミュート』を採用し、RC造のマンションの基準と同等の遮音性能を実現した」。耐火面では、「耐火構造で、21mmの石膏ボードを2枚ずつ、床と壁に施し、換気ダクトの貫通孔にも石膏ボードを設置」することで、60分耐火性能を実現した。
定期借地という事業形態では、建築費と工期も重要なポイントになる。建築費の面では、「一時は、ウッドショックなどもあったが、現在は全体的に建築費が高騰する中でも、木材価格は安定しているという良さもある」という。「木造の方がコンクリートなどに比べて比重が軽く、杭工事が不要になる場合があるというメリットもある」と強調する。杭工事の費用を削減できるだけでなく、「杭施工の分の工期を短縮でき、仮設資機材や作業員の人数も減らして、経済的なメリットは高い」。
この規模の宿泊施設の施工を経験し、「住宅とは換気や空調、セキュリティなど設備設計の考え方が全然違う」と感じた。高級ラグジュアリーホテルで木造・木質化のニーズが増えており、「知見を蓄積し、さまざまなデザイナーなどとも協業しながら、ハイエンドの2×4木造ヴィラなどにも挑戦したい」と先を見据える。
【施設概要】
▽施設名称=T-home景
▽建築主=東武不動産
▽設計=アトリエ9建築研究所
▽施工=三井ホーム
▽構造=木造枠組壁工法、耐火構造
▽規模=2階建て6棟(管理棟含む)、延べ977㎡(A敷地)、延べ807㎡(B敷地)
▽部屋数・定員=北棟7室(40人)、西棟5室(36人)、中央棟西4室(32人)、中央棟東4室(32人)、東棟6室(44人)、南棟3室(16人)
▽木材使用量=集成材46.3m3、製材242.4m3、合板123.7m3、造作材6.6m3、計419m3
▽炭素貯蔵量=343.9t
▽工期=2024年12月-2025年11月末
▽建設地=東京都墨田区押上1-25-10
◆カナダ林産業審議会
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〒105-0001 東京都港区虎ノ門3-8-27 巴町アネックス2号館9階 TEL:03-5401-0533
カナダ林産業審議会(COFI)は、ツーバイフォー工法や木質トラス構造、それらに使用されるSPF材など、木造建築に関する普及・啓蒙活動を行っているカナダの非営利団体です。









