脱炭素化に向けて木材利用への注目が高まる中、「その木材がどのような森林から調達されたものなのか」が問われている。2024年4月に英科学誌「ネイチャー」に掲載された研究によると、世界的な森林認証であるFSC(Forest Stewardship Council=森林管理協議会)認証を取得した森林では、非認証林と比較して2.7倍の大型の絶滅危惧哺乳類が生息しているという。生物多様性や人権にも配慮し、適切に管理された森林から木材を調達するため、近年では戸田建設、大林組、竹中工務店など大手ゼネコンによるFSC認証木材の利用が拡大している。
◇認証取得が信用性保つリスクヘッジに
建設業界に脱炭素や環境配慮に加え、人権配慮や調達リスクへの対応がこれまで以上に求められている昨今、日本の企業含め社会全体で木材活用への機運は高まりつつある。それだけに「木材を使用すること=サステナブルに貢献する」との認識が広がる一方で、「国産材や外国産材を問わず持続可能な管理がされている森林から木材を調達してこそ、持続可能な社会の実現につながる」と注意喚起するのが日本法人のFSCジャパン(日本森林管理協議会)だ。
◇森林破壊で問われる木材の持続可能性
FSCは、持続可能な森づくりの実現に向けて、適切に管理された森林から調達した木材や木製品などを認証する独自の国際森林認証制度「FSC認証」の普及に励んでいる。マクドナルドの包装紙やスターバックスコーヒーのペーパーカップなどの紙製品でFSC認証紙が使用されているが、近年は紙製品に限らず、木材利用に関する認証として建設業界にもFSC認証木材の活用を呼び掛けている。
その背景には、森林資源を取り巻く深刻な問題がある。近年よく話題に挙がる「ネイチャーポジティブ」(自然再興)を通じて、着実に生物多様性に対する関心は広がっている。ただ、多数の生物たちの住み処を担う森林も各地で破壊が進み、過去10年から20年の間で年間平均470万haが地球上から消失した。この数字はサッカーコート1面分の森林が4.8秒ごとに消失することに相当する。
こうした森林破壊に警鐘を鳴らし、健全で回復力のある森林管理を促進する目的で設立されたのがFSCだ。1994年に26カ国の環境団体や林業者などが中心となって活動が開始され、FSCジャパンを含む世界48カ所の現地事務所がFSC認証を通じ、環境や社会に配慮しながら経済的にも継続可能な森林管理の普及に努めている。
FSC認証は、原材料の原産地である森林から最終製品までのサプライチェーンの全ての工程が認証でカバーされることが前提にあり、FSCの理念に沿って適切に管理された森林を認証する「FM認証」と、加工・流通過程で不適格なものが混入されていないことを認証する「CoC認証」の連鎖から成り立っている。認証審査は、第三者の認証機関によって世界的に統一された10の原則と71の基準に基づいて実施され、全ての基準を満たした場合のみ認証が与えられる。
特にFM認証の審査基準の根幹をなす10の原則には、合法性や生物多様性保全といった環境的な観点に加え、労働者の権利や先住民族の権利の尊重など社会的な要素も基準項目に盛り込まれている。FSCジャパンの担当者も「森林と共存してきた人たちが守られ、森林に関わる全ての人の人権が尊重されてこそ、FSCが目指す責任のある森林管理が実現する」と力を込める。
◇建物が認証対象の「プロジェクト認証」
こうした中、FSCは2006年から建物を認証対象とした「プロジェクト認証」を通じ、木材利用量の多い建設業界への普及促進に努めている。日本のCO2排出量の3分の1が住宅・建築物に関連するものであり、脱炭素化に向けて建設業界の貢献は欠かせない。2020年の東京オリンピック大会組織委員会が持続可能性にも配慮した木材調達を実施するよう基準を策定したことや、林野庁による合法的に伐採された木材や木材製品の流通や利用の呼び掛けなど社会的な機運醸成も手伝い、近年では建築分野での認証取得が進んでいる。
プロジェクト認証取得には、FM認証を持つ森林管理者か、CoC認証を受けた建材メーカーや商社などから調達したFSC認証材を使用することを必須条件に定める。現場を取り仕切るゼネコンなどが担うプロジェクト管理者が、FSC認証材を適切に扱うためのマニュアルを用意し、プロジェクトメンバーである専門工事業者などに対し責任を持ってマニュアルの遂行に当たる。プロジェクト認証は「全体プロジェクト認証」「特定部位に対するFSC表示(部分認証)」「パーセント表示」の三つの宣伝表示が設けられている。現在(26年5月時点)のプロジェクト認証数は申請中のものを含め計85件でそのうち民間建築は約6割、公共建築が約4割を占める。
特に特定部位のみにFSC認証材を使用することで認証を得られる部分認証は、全体プロジェクト認証などよりも取得のハードルが低く、プロジェクト認証全体の約8割に及ぶ。戸田建設は本社ビル「TODA HQ PROJECT」(東京都中央区)で役員エリアの廊下や会議室、カフェカウンターの天板で認証を取得したほか、大林組も「Port Plus」(横浜市)で、天井の羽目板、ルーバー、CLTルーバー、プランターベンチで取得済みだ。竹中工務店では「立命館アジア太平洋大学グリーンコモンズ」(大分県別府市)で17本の柱と60カ所の什器のほか、成蹊大学(東京都武蔵野市)のルーバー天井でも部分認証されており、認証取得者には大手ゼネコンも名を連ねている。公共建築は、鳥取県日南町にある「道の駅にちなん日野川の郷」の構造材、静岡県浜松市の「浜松城」が3階の床材などで部分認証を得ている。
日本はRC造の建設で使用される型枠工事の合板材を主にマレーシアから調達しているとされ、中には違法伐採が行われている森林由来の製品もあると言われる。このような問題のある木材利用を回避できる手段として、認証木材の利用は企業のデューデリジェンス(適正評価手続き)対応や信用性を保つリスクヘッジとしても効果が期待されており、FSC認証を取得する意義は小さくない。
◇情報開示時代の企業価値に直結
既にCSR(企業の社会的な責任)はもちろん、ESG投資やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の対応も求められる時代に突入している今、FSC認証は企業が持続可能な調達に積極的に取り組んでいる姿勢を示す手段となり、イメージアップも期待できる。26年1月に公表された世界経済フォーラムによる「グローバルリスクレポート2026」の長期リスクを見ても、1位が「異常気象」、2位が「生物多様性の喪失・生態系崩壊」と環境系の問題が上位につけ、環境問題への関心の高さがうかがえる。世界的にも環境対応にどう向き合うかが焦点となっており、「リクルート活動にも関わってくる」と指摘する。
25年2月に実施したFSCジャパンによるFSCマークの認知度調査では、5年前と比較して1.5倍の33%に向上し、年代別では10代が59.0%と最も高く、20代が37.4%と続き、若年層を中心に認知が高い傾向にある。FSCジャパン担当者は「こうした調査結果も含め、新卒採用の中心となる世代では環境への意識が高まっており、これまで以上に企業の姿勢が問われている」と話す。
25年4月に発表された米国の環境認証制度「LEED」の最新の評価システムでは森林認証の中で、FSC認証材は最も高いポイント加算が認められるようになり、取得の意義は強まっている。FSCジャパンでも、「認証木材を利用したいが、どこから調達できるのかわからない」という声に応えるため、日本全国のFM認証林の場所やその認証木材の販売可能な量などを掲載した「国内FSC認証林マップ」を公開しており、需要家とのマッチングに力を入れる。




