【企業価値=資本効率ではない/太田洋弁護士が説く平時からの備え/成長へのストーリーづくり】
全国ゼネコンの経営者たちが吐露した本音はインフラを支えてきた自負に対して、短期的なリターンを求める株式市場への強い違和感に満ちていた。しかし、投資家の提案は正論であり、精緻であり、そして突然である。コーポレートガバナンスやM&A(企業の合併・買収)に詳しい太田洋弁護士(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業)は「建設業は外部要因の影響を受けやすいため、一定の資本バッファーは必要」と前置きした上で、こう釘を刺す。「漫然と現預金を積み上げてはいけない。株主還元を必ずせよということではないが、しないならば何のために保有しているのか。そこに説明責任が伴う」
太田氏は「市場からの評価が低い場合、機関投資家の理解が十分に得られていないところもあると思う。ただ、理解不足を嘆いているだけでは何も状況は変わらない」と指摘する。その上で重要になるのが、資本政策に関するストーリーをつくることだ。「例えば、企業価値向上のアクションプランを開示し、機関投資家からの評価につながった事例もある。株主還元によらず、株価を上げることも可能だ」と話す。
現預金と同様に投資家のターゲットになりがちな不動産の保有もストーリーづくりでギャップが解消できる。投資家からはROE(自己資本利益率)を下げる要因になると整理を要求されるが、安直に売却すること、あるいは要求に取り合わないことは得策ではない。「本業とシナジーがあり、安定的に収益を確保できることを説明することが大切だ。事業ポートフォリオは自ら考えることが当然であって、投資家が外来的に決めるべきことではない」と説く。
「企業価値=資本効率ではない」と太田氏は強調する。続けて「資本効率を極限まで高めるには多額の借り入れをして自己資本比率を下げればいい。しかし、借金までして自社株買いをしていた会社はリーマン・ショックで全て倒れた。アクティビスト(物言う株主)たちもそのことはよく知っている」とも。求められているのは確かな成長へのストーリーと説明責任だ。会社が傾いてしまうような還元策では決してない。
“経営の防災訓練”を
建設業については「比較的ドメスティックな事業なため、海外機関投資家から資金を集めることが至上命令である他業種と比べると、今まで意識がやや弱かった部分があった。そこを突かれ、アクティビストに介入される事例も結構あったと思う」とみる。
では、実際にアクティビストによる介入や同意なき買収提案にはどう対応すればいいのか。太田氏は「初動対応がかなり重要になる」と断言する。「市場で急速に株式を買い集められ、あっという間に20%を超えるような事例もあった。30%や40%保有されてしまった後では、会社として取れる選択肢は極端に少なくなる。また、初期段階で社内が混乱して時間を空費し、それが後々の足かせとなりかねない。作業分担や外部アドバイザーへの相談など事前に準備しておくことが不可欠だ」と指摘する。
比較的有効な対策としては、役員を中心とした勉強会の開催を挙げる。同意なき買収提案やアクティビストからコンタクトがあったことを想定して、どういう時間軸で何が起こり、それにどう対応していくべきかをケーススタディーするいわば“経営の防災訓練”だ。「社外取締役も含めた役員が全体の見取り図を描けるようにしておくだけでも大きく変わってくる。ニューヨークのパートナー弁護士によると、米国のほぼ全ての上場企業が毎年そうした演習に取り組んでいるそうだ。毎年が難しくとも、中期経営計画の策定時などの機会を捉えて組み込むべきだ」と主張する。
さらに、仕掛けられた時の対策だけでなく、経営が取れる事前策として「最適株主構成」の考え方も提案する。「長期目線で株を保有してほしいのなら、会社自ら年金基金などの長期ホルダーにアピールするべきだ。米国では自らの業態にマッチした投資家に保有を提案するような手法も取られている。IRを強化することはそうした点でも重要だ」との見解を示す。
「アクティビストが全て悪だというつもりは全くないが、最近は企業価値を完全に破壊しかねない行き過ぎが目立つケースもある。背景には日本の会社法や金商法が欧米諸国と比較して、株主権が非常に強いことがある。臨時株主総会の招集請求権も他国に比べるとハードルが低く、株主提案でも定款変更という形を取れば、業務執行に関する事項もできてしまう」と指摘する。
「建設業も資本市場の法制度が自分たちの経営に、直接影響してくることを認識し、政治に対して声を上げていくことが大事だ」と呼び掛ける。
