【「量より質」の経営持続/改修設計にも意欲/松田平田設計 江本正和(えもと・まさかず)社長】
2026年9月、創業95周年を迎えた松田平田設計。江本正和社長は6月決算の結果を「4期連続で10%弱伸びている」と語る。さらに、受注高も好調を維持しており、「昨年に続いてバブル以来の高水準となった」と振り返る。需要も旺盛だが、「キャパシティーを超えて受注すれば結果的に外注が増え、所員の成長機会が失われる」との懸念から、規模と業務量のバランスを図り、「量より質」を重視した経営の持続に目下取り組んでいる。
「公共工事だけでなく、民間の大型投資が市場をけん引しているのが特徴だが今後は分からない」と気を引き締める。「プロポーザルでチャレンジしているのは、スケジュールが確実な公共事業や、得意分野でもあるスタンド系施設、教育施設や病院、大規模改修などが中心となる。建て替え時期を迎える施設の需要が増えているが、近年の建設工事費の高騰がネックになっている」という。
AI(人工知能)の活用については「意思決定の質と速度を高める点が本質だ」とみる。設計者には「何を問い、どのような条件をAIに与えるかが問われるようになる。“良い問い”がAIを検索ツールから戦略立案パートナーへと変える」と説く。最適解を導き出す「解の設計」から「問いの設計」への移行に伴って「技術や処理能力でなく、『問いの深さ』がこれからの設計事務所を差別化する」と考えており、今後求められるのは「社会が言語化できていない課題を発見できる人材だ」と見通している。こうした人材が、「社会の未来図を描き、問いを提起することがこれからも設計者が担うべき役割だ」と語る。
これまで約6000件の新築を手掛けてきた同社。改修は現状1600件ほどだが、今後は「自社設計以外の案件も含めて積極的に取り組む」構えだ。「改修は、原設計者の思いをくみ取った上でコンバージョンなどの多様な形で実現できる。新築と同じくらいの創造力が必要なやりがいのある仕事」と魅力を語る。
根底には「建物を一度建てたからには長く使う責任がある」との考えもある。今年の夏、事務所創業期に設計し、約90年住み続けた一般住宅の解体に接する機会があった。設計者としては、「住宅でも丁寧にメンテナンスしていけば十分90年持たせることができる。最低でも50-60年は使われてほしい」との思いがある。
このため、「“壊して建てる”の繰り返しでは手間やコストが2倍になり、CO2も多く発生する。リノベーションは環境負荷とコストの抑制を実現しつつ、資産価値向上を図ることができる。一過性の施策でなく、持続的に推進していくことが重要だ」と強調する。
100周年という大きな節目を前にしても、「通過点に過ぎない」ときっぱり。「利潤の追求や組織の拡大目標ではなく、もっと大きな視点に立ったフィロソフィーのようなものがわれわれのビジョンだ」とした上で掲げるのは、社是である『優良なる社会資産の創造』だ。「長寿命であることも“優良さ”の条件に含まれる。解体するのは最後の手段でありたい」と力を込める。
◆横顔
「もともと理系ではなく、考古学や歴史に関心があった」という江本社長。大学時代、建築家・大谷幸夫の集中講義で聞いた「建築を誰にささげるかを考えよ」との教えが耳に残っている。
