【業界構造の「もろさ」露呈/世田谷建防協、大口優先の流通に疑問/人手不足も公共工事に影】
最後に訪ねたのは、世田谷区建設団体防災協議会だ。同協議会は、区の工事を元請けで受注する団体から専門工事業者、労働組合までを束ね、行政と業界のパイプ役を担っている。5月の大型連休明けごろには、区から協議会に各事業者の状況について聞き取りがあり、協議会は公共工事へのスライド条項の適用や工期延長への柔軟な対応、融資などの支援を求めた。
同区内でも4月ごろから資材の流通が滞った。協議会の兒玉奈輔事務局長は「最初に消えたのはシンナーだった。塩ビ管、シーリング材、マスキングテープ、養生シート……。入ってきたのは木材だけだった」と振り返る。塗装業では、材料が手に入らない間をアルバイトでしのいだ事業者もいたという。
兒玉氏は、目詰まりが表面化した時期に疑問を呈する。「3月に戦争が始まって、なぜ4月に日本で製品がなくなるのか。まだ海の上を渡っている途中だろうと言いたくなる。あの時点で、どこかが(材料の)流通を止めていたのだと思う」
さらに兒玉氏は「出す、出さないを業者を見て決めている。町場の工務店や専門職が買おうとしても買えない」と話す。大手ゼネコンなど大口の取引先には資材が入るのを見て、「構造的な問題だと思った」という。副会長を務める小熊建設の小熊大作社長は「流通を止めている事業者の実名を公表するなど、行政側から是正する動きがないと、本当の意味で解決にならない。今回のような事態がまた起きないとも限らない」と訴える。
その後、流通の目詰まりは徐々に解消し、8月には「通常どおりに近づいた」という。一方で、価格は依然として高止まりしている。
◇緊急融資も「二重ローン」
協議会の要望も受け、区は8月から中東情勢対応緊急資金の受け付けを始めた。だが、事業者は必ずしも好意的に受け止めているわけではない。兒玉氏は「融資はつなぎにはなるが、返さなければいけない。コロナ禍に借りたお金を返している最中で、また融資を乗せると、二重のローンを返すことになる」と話し、返済の必要がない給付金を求める。
小熊氏は、区が発注する公共工事についても「これから不調は増える」とみる。「予定価格はおそらく(公告から)半年ほど前の単価で組まれている。その間に値上がりすると、実際の価格と合わなくなる」。スライド条項も「契約後の値上がりが(請求の)対象だが、今後は入札の時点で値上がりが分かっていた工事が増える」と、価格が高止まりした中での運用に懸念を示す。
かねての課題である人手不足も影を落とす。兒玉氏は「われわれ職人や技能者ももちろん足りていないが、自治体側でも工事を管理する技術者がいない。経験を積んだ職員も、高給で民間企業に引き抜かれてしまう」と指摘する。区内のゼネコンには、公共工事では比較的予算が大きい学校関連の案件でも、修繕は受けても改築や新築は手掛けない動きが広がっているという。「官民が一体となって施設の改修などを担う仕組みを作らないと、この先は持たない。それくらい本当に人がいない」
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中東情勢の悪化は、建設業界に大きな影響をもたらした。自治体を中心に支援策が講じられたものの、その制度設計は必ずしも地場の事業者の困りごとを解決できるほど整えられてはいない。より多くの事業者が恩恵を受けられるよう、自治体と事業者の日常的な連携や情報共有が欠かせない。
そして、一連の動向で浮き彫りになったのは、業界内で以前から指摘されてきた「もろさ」だった。重層的な流通の中で小規模な事業者まで資材が行き届かない構造や、公共工事を担う人材の不足は、人々の暮らしの安定を揺るがしかねない喫緊の課題だ。いつかまた訪れるかもしれない緊急事態に備え、官民ともに業界の在り方を根本から見直す必要に迫られている。
(小宮廉)
