対談・前田建設社長 前田操治氏/三井住友建設社長 柴田敏雄氏 | 建設通信新聞Digital

10月18日 土曜日

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対談・前田建設社長 前田操治氏/三井住友建設社長 柴田敏雄氏

【規模追わず企業価値向上/これからグループの歴史つくる/ガチンコ議論し成長する兄弟に】
 規模を追わない大型再編--。インフロニア・ホールディングス(HD)への三井住友建設の参画がとうとう現実のものとなった。単体売り上げで年間5000億円規模と3000億円を超えるゼネコンのタッグはこれまでに類を見ない。だが、繰り返し強調されるのは売り上げ規模ではなく、企業価値の向上だ。その価値向上のキーマンである前田建設の前田操治社長と三井住友建設の柴田敏雄社長の2人が、日刊建設通信新聞社のインタビューに応じた。競合関係ではなく、「ガチンコで議論してお互いが成長できる兄弟関係を目指す」という新しいアライアンスを築いていく2人が真正面から語り合った。
 「改めて大きな決断をしたという実感が込み上げている。会社に対する責任、社員に対する責任を思い、身の引き締まる思いだ」と率直に語った柴田社長。ただ、その表情は決して暗いものではない。「お互いを知るにつれ、今後のポイントも明らかになってきており、将来に向かって十分シナジーを発揮できる環境が整ってきている」と言葉に力を込めた。
 シナジーという言葉を引き受けた前田社長は「この相乗効果という言葉にはさまざまな意味がある。足し算の効果もあれば、引き算の効果もあり、そしてかけ算の効果もある。資金調達の交渉力を高めたり、バックオフィス部門を効率化したり、提案力・積算力を高めたりと強みを生かしながら、手薄な部分を補完し合える」と説明。特に注力するコンセッション(運営権付与)分野では「ゼネコンだけでなく総合商社やデベロッパーと競合や連携をする上で、エンジニアリング力で差別化できると実感している。両社の優位性を出しながら一緒にチャレンジしていきたい」と先を見据える。
 柴田社長も「当社もその一角を担って一緒に参画できる可能性は十分にある」とPPP・PFIやコンセッション参画への意気込みを見せた。これまでのDBO(設計・建設・運営)での上下水道施設やごみ処理場、スポーツ施設などで実績を残しているほか、「LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)などの低温液化ガスの貯蔵やバイオマスをはじめとする粉体の貯蔵を、土木・建築だけでなく機械・設備を含めて一式で請け負った実績もある。この分野では大手にも引けを取らない」と脱炭素やエネルギー関係でも存在感を発揮していきたい考えを示した。
 海外については三井住友建設が強みを持つインドを中心に取り組みを展開することで認識が一致。同社のローカル人材を重視する姿勢やグローバル人材開発センター(HDC)といった取り組みに対し、前田社長は「経験を聞いて、海外事業でも連携をしていきたい」と期待を寄せた。
◆合併ありきならノー
 インフロニアHDという体制について前田社長は「それぞれの事業会社の持つ過去の歴史を含めた企業文化を残しながら、事業会社同士が強みを発揮できる」とそのメリットを説いた。昨年元日の能登半島地震の復旧では地域で実績のあるHD傘下の前田道路や日本風力開発との連携が強みになったことを説明し、「非常事態の中で一体感が生まれた。これからもいろいろな仕事ができると思う。こうした経験を通じてグループとしての歴史をこれからつくっていきたい」と未来に思いをはせる。
 このHD体制のメリットには柴田社長も共感した。「今回の参画も最初から合併ありきだったら、私はノーと言っていた」と断言。2003年の三井建設と住友建設との合併では「制度や企業文化が全く異なる会社が一つになるということで、心理的な面も含めて本当の意味で一緒の会社になったと実感できるまでには相当の労力と時間がかかった」と振り返った。「HDはスムーズに事業を継続しながら、シナジーが発揮できる体制だ」と強調し、「企業の文化や風土を無理に合わせる必要は実はない。逆に違う持ち味を出してぶつけ合うことで新たなイノベーションが生まれる」と確固たる信念を持って統合に臨む。 =10面に続く