全国さく井協会の防災井戸が2026年熊本地震の被災地で活躍している。連日40度に迫る記録的な猛暑の中で発生した断水被害に対し、避難所や公共施設に設置した防災井戸が生活用水を供給し、被災者の命と衛生環境を支える重要な役割を担っている。10年前の熊本地震で避難所生活を経験した同協会の岩隈一幸副会長・九州支部長は「災害時に本当に不足するのは飲み水ではなく生活用水だ」と強調する。
防災井戸は、災害時にトイレや手洗いなどに使う生活用水を確保するため、避難所となる学校や公園、公共施設などに設置するポンプ式の井戸。手押しポンプ式とタンデム式(水中モーター付)があり、最大約50mの深さから呼び水なしで毎分30-40リットルを取水できる。停電時も利用可能で、子どもや高齢者でも容易に動かせる。
九州では、肥後銀行が熊本県内10店舗に導入したほか、同協会が宇城市や宇土市、益城町、熊本市上下水道局と災害協定を締結し、整備が進んだ。防災拠点センターなど9カ所に設置した宇城市を含め、約60カ所に設置済み。今回の地震では、同協会が発災直後に点検した結果、全井戸が正常に稼働していた。
トイレが使えなくなると避難所の衛生環境は急速に悪化し、水分や食事を控えることで脱水やエコノミークラス症候群など災害関連死のリスクが高まる。16年熊本地震でも直接死を大きく上回る災害関連死が発生し、感染症対策の面からも生活用水の確保が重要な課題となった。
現在、多くの避難所ではプールや貯水槽を生活用水の水源として想定しているが、藻やごみを含む水はマンホールトイレの配管詰まりを招く恐れがあるほか、貯水槽も避難者が想定を上回れば短期間で枯渇してしまう。
これに対して、防災井戸は地下水がある限り継続的に水を供給できる。また、地中深くまで垂直に構築する「点」のインフラであることから耐震性に優れる。同協会では、径250mmで掘削した井戸に100mmの管を通し、周囲の空間に砂利などを充てんする「100仕上げ」を標準仕様としている。これにより、充てん材がろ過層となって砂の流入を防ぐとともに、管を地盤や地震時の外力から保護し、高い耐久性を確保する。
今回の地震では約18度の地下水が熱中症対策にも威力を発揮し、被災者は濡れタオルや足水などに活用した。また、個人宅や企業の災害時協力井戸は停電時に電動ポンプが停止することや、防犯・プライバシー面の課題があることから、岩隈支部長は「自治体が避難所や公園など公的な場所へ手動式の防災井戸を整備することが重要だ」と訴える。
同協会は約7万9000件の井戸データを蓄積し、地下水の賦存(ふぞん)状況を把握できる全国地下水データベースを整備している。このデータを活用することで、効率的な防災井戸整備が可能になる。岩隈支部長は、今後設置予定の防災庁への提言も視野に、地下水利用の普及を図る考えだ。「日本はどこでも地震のリスクがある。過去の教訓を生かし、生活用水を確保する備えが、多くの命を守ることにつながる」と述べた。
