【図書館建築】既成概念を疑い地域のニーズを掘り出す新たな潮流 益子一彦氏に聞く | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【図書館建築】既成概念を疑い地域のニーズを掘り出す新たな潮流 益子一彦氏に聞く

「知の集積」のシンボルとなるブックタワー(学びの杜ののいち カレード)

 2017年、3つの地方都市に個性的な図書館建築が完成した。愛知県安城市の図書情報館「アンフォーレ」、石川県野々市市の文化交流拠点施設「学びの杜ののいち カレード」、岡山県玉野市の「市立図書館・中央公民館」だ。いずれも中心市街地活性化の拠点として計画されたもので、にぎわいの創出や市民の交流を育む施設として、従来の枠組みを超えた新しい図書館像が求められた。これら3館の設計者である三上建築事務所の益子一彦所長に、時代の変化とともに、その存在自体も大きな変化の中にある図書館建築のあり方と、建築家に必要な視点などを聞いた。 この30年で約20の図書館建築の設計を手掛けてきた。この間、「大きな変化は3度あった」という。1度目は貸出重視の市民に開かれた図書館がうたわれ、公共図書館が急速に普及し始めた1980年代の「市民の図書館」であり、2度目は90年代半ばの「滞在型への移行」だ。利用者の“居心地の良さ”が重視され、「場」としての図書館の充実を求める流れは今日に続いているものでもある。

三上建築事務所所長 益子一彦氏

 そしていま、「ICT化の進展」という3度目の変化の渦中にある。これと並行して「飲食を含む他機能との複合化」なども公共施設再編を背景とした地方自治体にとって重要な課題だと指摘する。
 今回の3つの施設は完成年度こそ一緒だが「スタートはずいぶん時間が違う」中で後発の野々市と玉野では「意図的に“事件”を起こそうとして造っている」と語る。ともに図書館と公民館の複合施設だが、特に商業施設の一部をリノベーションした玉野は「図書館開架スペースの真ん中に公民館機能を置いて完全に一体とした」ものであり、「図書館で勉強して得た知識を公民館で実際に使ってみたら、それはもっと有効なものになって発展していく。今後の1つのモデルになっていく可能性を持っているのではないか」と期待を寄せる。
 もっとも「見慣れないもの、経験値にないことには拒絶反応が起こる。実際に野々市でも玉野にしても設計段階では猛反対を受けた」とも。それでもあえて新しいモデルを提示していったのは「図書館とはこういうものだという既成概念を疑うこと。もう一回考え直し組み立て直していく」という思いからだ。
 その根底には「図書館に限らず、建築をつくることは地域が抱えている問題を解決すること」だという確固たる信念がある。例えば停滞している中心市街地に建築をつくることで何ができるか。「手っ取り早く言えば集客装置であり、とりわけ10代半ばから20代半ばの人たちに来てもらえることを常に狙っている。公共施設のターゲットもそこに置いている」とし、「これからの社会を背負っていく、地元を支えていく若い人たちにとって誇りが持て元気になるところ、その土地を離れてもなにかしら原体験として思ってもらえる場所を提供したい」と力を込める。
 ワークショップには「高校生が参加できるようにお願いしている」という。「大人だけだと自分の権利主張になっていくことが多い。ところが高校生が入ると議論がまっとうなものになっていく。若い人の方がニュートラルに公共の施設だから、みんなのためにどうあったらいいかを冷静に考えられる。それが僕らの体験している現実です」とも。
 いま野々市は「インスタ映えする図書館」と若いお母さんたちに好評だという。「子どもの成長と一緒に図書館も写真に写してもらえる。それもいいなと思います」
 「建築をつくるための手間を惜しんではいけない」と「一つひとつを大事に考えて」設計実績を積み重ねてきた。その図書館建築の知見とノウハウは、17年から筑波大学情報学群知識情報・図書館学類の非常勤講師として次代を担う学生にも伝えている。「多少なりとも刺激を提供し続けられるよう頑張っていきたい」

◆『続・図書館空間のデザイン』/(丸善出版/3200円+税)
 『図書館/建築/開架/書架』(1999年)、『図書館空間のデザイン』(2011年)に続く3冊目の著作となる。「実践3事例とICT導入法」と副題にあるように、益子氏の最近作である、安城、野々市、玉野の3市での実例をもとに、時代の変化に対する図書館建築のあり方と、その空間的な解決策を、写真、図面、ダイアグラムを豊富に用いて解説したものであり、最新の図書館建築の実践記録でもある。さらに図書館にICTを導入する際にあらかじめ備えておくべき知識と実践に当たっての注意点を列記。建築の専門家のみならず、図書館の設置や運営にかかわる人々にとっても必携の1冊と言える。

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