【クローズアップ】"明日をつかむ決断"で3団体合併 日建連発足から10年の歩みを振り返る | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【クローズアップ】”明日をつかむ決断”で3団体合併 日建連発足から10年の歩みを振り返る

 2011年4月1日に、日本建設業団体連合会、日本土木工業協会、建築業協会の3団体が合併、「日本建設業連合会(日建連)」が発足して10年。劇的な環境変化にさらされるなか、次代の産業と企業のための決断だった。国土交通省各地方整備局と毎年行っている意見交換の動向を通じて、新日建連10年を振り返る。

 「議題はほぼ同じなのに月に3回時間を取られる。どうにかならないのか」。日本建設業団体連合会、日本土木工業協会、建築業協会の3団体(当時)の常任理事、理事を務める企業トップの冗談めかした不満が、現実問題として表面化したのは、急激な環境変化が理由だった。

 バブル崩壊後、まず出口の見えない厳しい局面に相次いで向かい合ったのは、一般競争入札導入、公共工事コスト削減・予算削減が続いた「土木(政府投資)」だった。

(注)1.2018、19年度見込み額、20年度は見通し額
   2.政府建設投資のうち、東日本大震災の復旧・復興等に係る額は、11年度1.5兆円、12年度4.2兆円と
     見込まれている。
     これらを除いた建設投資額は、11年度40.4兆円(前年度比3.6%減)、12年度40.7兆円(同0.6%増)
   3.15年度から建設投資額に建築補修(改装・改修)投資額を計上している
                                (出典・日建連2020建設業ハンドブックより)


 一方、土木市場低迷を補う形で堅調な需要による売上高の下支え役となっていた「建築(民間投資)」も、ある出来事によって一気に環境が悪化する。きっかけは2008年のリーマンショックだ。大手企業や準大手企業にとって売り上げ割合が高い「建築」も、リーマンショックによる需要急減で受注高の確定を最優先にする企業が続出したことで、熾烈(しれつ)で深刻な価格競争に陥った。

 この時、「土木」も同じような環境に直面していた。大規模工事の過度な安値受注の波紋が拡大、道路特定財源廃止や公共事業削減を掲げる民主党政権発足など、建設需要増加につながる期待が何一つ持てない状況のなかで、支出抑制と効率化を進める各企業が、業界団体の会費削減と活動の効率化を理由に団体合併に向かうのは当然の流れだった。

 発足した新日建連は、それまでの業種ですみ分けられた対応・活動を一元化したことで、名実ともに建設産業を代表する業界団体として活動を展開することになる。時代背景も強力な活動と成果を後押しした。

 団体合併前、公共調達のカウンターパートである国土交通省との関係は大規模工事の過度な安値受注などを理由に冷え込んでいた。冷え込む関係を一変させたのが、新日建連発足1カ月前に起きた、東日本大震災だった。震災から2カ月後に始まった日建連と国交省地方整備局との意見交換で、社会資本整備の重要性について双方が再確認、翌年の意見交換で東北地方整備局からは「戦友」「良きパートナー」との発言が出るまでに関係は修復した。

 さらに15年、日建連は25年までに100万人を超える技能者が高齢を理由に離職する試算を『長期ビジョン』のなかで公表。これが建設産業界で取り組む、技能者の処遇改善、生産性向上と働き方改革、さらに建設キャリアアップシステム始動へとつながっていった。

 そしていま、人口減少と高齢化という構造的課題を踏まえ、生産性向上と生産システム維持のための建設キャリアアップシステム拡大に加え、建設産業界の脱炭素・カーボンニュートラルへの取り組みもけん引しようとしている。

■竹中康一氏/競争激化の弊害 自覚を
 公共工事のさまざまな課題について受発注者が議論する、日建連と国交省各地方整備局との意見交換会の歴史は、土工協の時代から続く。その土工協の役割を引き継ぐ日建連土木事業本部の副本部長を唯一、10年継続して務めている、竹中康一氏に10年間の意見交換の成果を聞いた。

 ――10年、国交省との意見交換に変化は
 「最大の変化は、意見交換会後も定期的に開かれるフォローアップ体制が構築されたことだ。意見交換というと、場合によっては互いが言いっ放しということもある。意見交換後も議題の対応について検証をしていくということは非常に大事なことだ」
 「もう1つ。10年の変化で感じることは、われわれの側も運営メンバーの尽力で伝えたいことの資料作成には工夫を凝らしているが、国交省に想定以上の速さで対応してもらうことにはびっくりしている。先回りして対応していると感じることもある」

 ――今後の意見交換会については
 「土木が建築と若干違うのは土木の場合、技術者も協力企業の技能労働者も全国に点在する現場に赴任するのが特徴。昔のように完成したらみんなで旅行をしたりして、ものづくりの喜びを味わうことも難しい。いかに建設の魅力・やりがいを感じてもらうか、これが担い手確保・育成の視点でも大事だ」

 ――業界の今後の課題は
 「いま一番心配しているのは、過去のような過度な競争激化が建築・土木で広がることだ。建設キャリアアップシステムや技術革新を通じて技能者の賃金など処遇改善、生産性向上に産業全体が取り組んでいるが、これまでのこうした努力が水泡に帰してしまうことを自覚すべきだ」


■発足までの歴史

◆2005(平成17)年
12月 日建連、土工協、建築業協連名のコンプライアンス順守通知

◆2006(平成18)年
4月 日本土木工業協会が「旧来のしきたりからの訣別」宣言及び『改革姿勢と提言』

◆2009(平成21)年
4月 土工協が日本電力建設業協会、日本鉄道建設業協会、日本海洋開発建設協会の旧土木3団体と合併。統合土木4団体による新生土工協発足
9月 民主党政権発足(12年12月自公政権へ、民主党政権は3年3カ月)

◆2010(平成22)年
4月 日建連(野村哲也会長)が常任理事会で合併検討を提案。BCS(山内隆司会長)、土工協も同時に公益法人制度改革対応
4月 土工協(中村満義会長)総会で3団体先駆けて、3団体統合検討基本方針を決議。11年4月合併へ道筋決定

◆2011(平成23)年
4月 新・日建連(日本建設業連合会)が発足。初代会長は野村哲也氏
土木本部長は中村満義氏、建築本部長は山内隆司氏
5月 日建連と国交省地方整備局との意見交換。震災から2カ月後、社会資本整備の重要性と出先機関である整備局の重要性も業界が表明。また低入札防止対策で4月の調査基準価格のうち現場管理費の率引き上げを受け自治体も追随評価。
・震災対応理由にインフラ整備必要性へ官民共同歩調スクラム

◆2012(平成24)年
6月 日建連と国交省各地整の意見交換2年目。震災応急復旧で東北地整から「戦友」、各地で「良きパートナー」の声。
12月 自公政権発足 アベノミクス
・経済成長へ財政出動による公共投資増が鮮明へ
12月 笹子トンネル天井板落下事故

◆2013(平成25)年
4月 日建連、中村満義新会長、山内隆司建築本部長、宮本洋一土木本部長
5月 意見交換スタート。IT化で受発注者工程情報を共有。クリティカルパス、工程遅延の課題として双方認識。キーワードは「連携と協調」
6月 総括会見。陳情から意見交換へ。労務単価引き上げ受け「民間工事含め各社の理解が必要」

◆2014(平成26)年
5月 品確法改正含めた担い手3法成立
6月 意見交換総括。
・管理・工程表の共有、国交省直轄土木で2017年度から原則全て適用へ
・工事一時中止ガイドラインは国交省が2016年3月に公表

◆2015(平成27)年
3月 日建連、長期ビジョン。2025年までに高齢者を中心に100万人を超える技能者離職試算。処遇改善、生産性向上と働き方改革加速が背景
4月 日建連、NEXCO3社が品確法改正を受け、設計変更ガイドライン改定内容の周知へ説明会。業務効率化と収益改善につながることに
4月 日建連総会後の会見。中村会長「休日確保へ具体策」担い手確保育成と生産性向上が活動の機軸。ICT工事を念頭に。
6月 意見交換総括。多様な入札方式導入の夜明け
12月 国交省、i-Construction発表

◆2016(平成28)年
5月 意見交換開始。担い手確保・生産性向上が焦点
6月 意見交換総括。次年度の課題も生産性向上。課題は構造物・書類の標準化・共通化。週休2日は課題を整理
9月 政府未来投資会議で安倍首相(当時)が、「2025年までに建設現場の生産性を20%向上させる」数値目標を明言。

◆2017(平成29)年
4月 日建連、山内隆司新会長、宮本洋一土木本部長、押味至一建築本部長
4月 週休2日推進本部(井上和幸本部長)が「原則は現場の土曜閉所。総収入減らない方策検討」基本方針。2018年度から取り組み本格化。
6月 意見交換総括。国交省と課題共有から連携へ大きく前進。休日拡大は避けて通れない。

◆2018(平成30)年
3月 時間外労働時間の上限規制で経団連・連合、労使が歴史的合意
3月 国交省、建設業働き方改革加速化プログラム
5月 意見交換開始。週休2日と生産性、モデル工事拡大に意欲
6月 意見交換総括。各地区でJR、電力、ガス事業者も参加。自治体も視野に先進的取り組みの水平展開を日建連評価。民間工事への波及にも期待。働き方改革大きな焦点
7月 働き方改革関連法成立
12月 防災・減災、国土強靱化3か年緊急対策

◆2019(平成31、令和元)年
4月 建設キャリアアップシステム(CCUS)始動
5月 意見交換開始。テーマは働き方改革と生産性の2本柱
6月 新・担い手3法成立

◆2020(令和2)年
5月 コロナ影響で意見交換はテレビ会議の開催。日建連は週休2日実現とCCUS普及
7月 意見交換フォローアップ会議で、非接触・効率化・省人化の後押し対応
7月 中建審、「工期に関する基準」作成・勧告
10月 改正建設業法、技術検定関連以外が施行
12月 防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策を閣議決定

◆2021(令和3)年
4月 日建連、宮本洋一新会長、押味至一土木本部長、蓮輪賢治建築本部長
4月 3団体統合の日建連設立から10年



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