【カナリヤ通信・第67号】大学の実験室で生まれた「ドボジョ」 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

公式ブログ

【カナリヤ通信・第67号】大学の実験室で生まれた「ドボジョ」

清水建設土木技術本部プロジェクト技術部 白木綾美さん


 いまでこそ「リケジョ」や「レキジョ」など「○○ジョ」という言葉が“市民権”を得ているが、その先駆けは「ドボジョ」だった–。1988年、関東学院大学工学部土木工学科(現理工学部理工学科土木学系)の女子クラスの学生が『ドボジョ』と呼び始めたことがきっかけだ。このクラスの在籍時に「全国土木系女子学生の会」を立ち上げ、初代会長を務めた白木綾美さん(清水建設土木技術本部プロジェクト技術部技術展開グループ主任)は「土木学科に数少ない女性の仲間が全国にいることを伝えたかった」と振り返り、「土木でも女性が普通に働けるようになった。周囲を気にせず、のびのびとやりたいことに取り組んでほしい」と語る。

◆仲間がいること伝えたかった

 白木さんが関東学院大に入学した87年、宮村忠教授(当時)が中心となり土木学科に全国初の「女子クラス」を設立した。「勤労婦人福祉法」が改正され、「男女雇用機会均等法」(85年成立)が86年に施行したばかりで、建設業も女性活躍に目を向け始めた時期だった。

 高校時代から活動的だった白木さんは「女子クラスができると聞き、実家が建設業だったこともあり、周囲からも当然、自分が入るものだと思われていた」と話す。宮村教授は女子クラスの第1期生7人に「何かやってみないか」と声を掛けた。

 そこで、全国の大学の土木系クラスにどれくらい女子学生がいるのか調べ始めた。インターネットも普及していない時代だった。土木学会の教授名簿から「土木」と名のつく学科の教授に手紙を送り、情報提供を求めた。その結果、全国に約150人の“土木系女子学生”がいることを知った。学科に1人しか女性がいない大学もあり、仲間の存在を伝えるため、「全国土木系女子学生の会」を立ち上げた。話し合いの結果、白木さんが初代会長に就いた。

 調査票の発送や総会開催準備などの作業をしたのが宮村研究室の実験室だった「水理実験準備室」だ。倉庫のような部屋に「すのこやじゅうたんを敷いて靴を脱いで入れる場所をつくった」。授業が終わるとこの部屋に女子クラスメンバーが集まり、資料づくりなどに励んだ。「日本土木工業協会(現日本建設業連合会)や土木学会などにもバックアップしてもらえた」といい、業界の理解を得て2年目の88年に第1回総会を開いた。

 第1回総会には全国から63人が集まった。女子クラスに入ると授業や部活動などの大学生活の傍ら、同会の活動に参加することになり「2期生との温度差もあったりした」が、総会で全国の仲間が喜ぶ姿に「やって良かったと思ってもらえた」こともあり、活動が定着していった。

第1回総会でファッションショーを 実施した時の作業服


 その総会のイベントとして考えたのが、「作業服のファッションショー」だった。「学内でデートしたり、街で歩けるような作業服がいいよね」などと話し合いながらデザインを考え、大手繊維メーカーの協力を得て実際に作業服をつくってファッションショーを開いた。「作業服は一つのアイデンティティーであり、土木を良いイメージで見てもらいたかった」と当時の思いを語る。

 そのころ、「女子クラスのメンバーが学内を歩いていると『ドボ子ちゃん』と呼ばれるようになった。それがいつの間にか自分たちでも『ドボジョ』と言うようになっていた」。ドボジョという言葉は、周囲を巻き込んで土木の魅力を発信しようと活発に活動する女子学生たちへの羨望(せんぼう)の表れだったのかもしれない。

◆自分の家族に魅力PRを

 白木さんは学生のころから「土木の楽しさをもっと業界内にPRしなければいけない」と思い、活動してきた。その思いは清水建設に入社した91年以降も変わらない。現在も土木学会のコンサルタント委員会に所属して子ども向けの「どぼくかるた」を製作したり、学生との街歩きなど活動を続けている。特に「建設会社で働く社員が、まず自分の家族に土木の魅力を伝えてほしい」と願う。

全国土木系女子学生の会の作業部屋となった関東 学院大の実験準備室に設置されているパネル


 女子クラス1期生で業界からも注目を浴びていたため、「自分が辞めたら後輩も同じように見られるという、ものすごいプレッシャーを感じていた」と話す。ドボジョから日建連の『けんせつ小町』まで30年にわたる地道な取り組みの成果により、現在では女性が奇異な目で見られたり、やっかみを受けることなく、土木の業界で働けるようになった。「女性が当たり前になってきたことがうれしい」。だからこそ、土木系女子学生や女性技術者には「のびのびと、周囲を気にせず、やりたいことをしてほしい」と望む。

 女性に焦点を当てた取り組みとして、「女性用トイレや見学会などを進めてきたが、その次の、その現場でしかできない女性の取り組みを生み出すべき時期にきているのではないか」と指摘する。「女性に焦点を当てるのではなく、男女の区別なく土木の魅力を伝えられるようになれば」と理想の世界を思い描く。

(しらき・あやみ)1991年3月関東学院大土木工学科卒後、同年4月清水建設入社。土木技術部PCグループ、土木技術企画部などを経て現職。

◆連絡先はこちら
■お問い合わせ 株式会社日刊建設通信新聞社
カナリヤ通信編集部
 TEL03-3259-8711
 FAX03-3259-8730
■ご意見・ご感想は canaria@kensetsunews.comまでお寄せください。
「カナリヤ通信」は、日刊建設通信新聞社の登録商標です。


【公式ブログ】ほかの記事はこちらから


建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら