【カナリヤ通信・第65号×それぞれの2025】人型ロボット"ドカはるみ"の軌跡 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【カナリヤ通信・第65号×それぞれの2025】人型ロボット“ドカはるみ”の軌跡

飛行機に搭乗する角氏(左)とはるみちゃん


 2008年のロボット競技大会ROBO-ONEでデビューを果たしたヒューマノイド(人型)ロボット「ドカはるみ」(通称はるみちゃん)。はるみちゃんの進化形は現在、国内を代表する土木工事やオペレーター不足が深刻な除雪現場など全国各地で活躍している。生みの親となる富士建(佐賀市)の角和樹専務は、人と共存できる人型ロボットの意義を強調した上で、「倉庫にはるみちゃんがずらっと並び、工事現場に自ら行って、働いて帰ってくる姿が理想」と語り、完全自律化の早期実現を目指している。 角氏は現在63歳。大学の土木学科を卒業後、建設系コンサルタント会社からキャリアをスタートした。その後、20代後半に特殊土木を専門とする富士建に転職。現場技術者として働く傍ら商品開発も担当した。

 同社の看板商品の1つでセメントスラリーの中圧噴射と特殊攪拌翼併用の地盤改良工法「MITS工法 CMS(Combination Mixing Slurry)システム」の開発などを手掛けた。約40年間のキャリアを「とにかく何でもやった」と振り返る。

 会社の業務とともに、角氏が没頭したのが機械系の技術だった。「字が汚いから」との理由で日本電気(NEC)のPC-9801シリーズのパソコンとプリンターを自腹で購入した。「書き直しが大変」との理由からCADも覚えた。「必要に迫られたから使うようになっただけ」と笑うが、約30年前、業界内でCADを使いこなす人は珍しかった。

 趣味で没頭していたラジコンヘリコプターは、自身が担当する工事現場の空撮にも使えると考えた。ヘリコプターに使い捨てカメラを取り付け、遠隔操作で撮影できるようにした。メンテナンス時代の到来を見据え、ラジコンヘリコプターによる構造物の撮影にもチャレンジした。監理技術者を担当する工事で、日の出の時間に現場へ行き練習時間を確保するなど、腕を磨き続けた。

 しかし、構造物の撮影に必要な背面飛行は技術的難易度が高く、行き詰まりを感じていた。そうしたタイミングで出会ったのが、ロボット開発だった。本屋で見つけたロボット専門雑誌がきっかけとなり、06年ごろに初めて二足歩行ロボットの開発に着手した。ラジコンヘリコプターのプロペラ角度を調整するサーボモーターがロボットの関節でも多く使われており、「とっつきやすかった」ことも開発を後押しした。

 「ロボット業界の神様と言われている人が多く参加していた」というROBO-ONEへの出場などを経て、周りの教えを請いながら技術力を高めた。初めは30cm程度だったロボットの大きさは徐々に成長していくことになる。

 08年9月開発の初代はるみちゃんは身長90cm(体重9.5㎏)、10年12月開発の3代目は身長153cm(同14㎏)の等身大女性型になった。バッテリー駆動でサーボモーター58個とカーボンフレームで構成。関節の自由度は首3、腕6、手指4、胴2、脚5の計35カ所でほぼ人と同じ動作が可能だ。

 モーションエディタによりパラパラ漫画のように決められた動作を繰り返したり、マスタースレーブでリアルタイム操作もできる。

 名前は、当時親指を立ててブレイクしていたお笑いタレントにちなんで命名した。「はるみちゃんは5本の指を持っており、エド・はるみさんのようにグーグーができる」ことが理由だ。

 女性型であることにも明確な理由がある。スカートにすれば放熱性やメンテナンス性が良くなる。胸部の膨らみは転倒時のクッションの役割を果たす。「自分の好みではなく、あくまで機能優先」ときっぱり。

建機を操作するカナロボ


◆東日本大震災が契機に
 大型化への基幹的技術「ドカ脚」の開発など順調に完成度を高めていたが、大きな転機が訪れることになる。それは11年3月11日に発生した東日本大震災だった。

 九州から東北の惨状を見ていた角氏は、「少しでも役に立ちたい」と思い立つ。自らが被災者でありながら復旧作業を担う建設業の従事者を見て、「本当に大変なこと。だからこそ、被災していない場所からの応援が必要だと考えるようになった」と話す。これが、はるみちゃんのバックホウ操作に取り組む1つのきっかけになった。

 かねてから人型ロボットを建機の操作にも応用できると考えていたこともあり、はるみちゃんの弟として建設用ロボット「DOKAROBO(ドカロボ)」の開発が本格化することになる。

 ロボット制御システム「V-Sido(ブシドー)」の開発者で、日本でも有数なロボット技術者の吉崎航氏も合流した。自身は機械装置、吉崎氏はシステムを担当し、建設現場でも対応できるようロボットの高出力化などを実現していった。
 14年度に始まった国土交通省の次世代社会インフラ用ロボット現場検証にも参加し、国内を代表する他の建設用ロボットと肩を並べる存在まで成長した。

 建機レンタル会社のカナモトと共同開発して改良を重ね、「KanaRobo(カナロボ)」の名称で事業化。さらに21年春には、建機への後付けで遠隔操作できるシステム「KanaTouch(カナタッチ)」として商品化した。いまでは全国各地の現場で採用が広がっているという。

 角氏は現在、ロボット開発の豊富な技術的知見などを買われ、カナモト営業統括本部ニュープロダクツ室技術顧問としても活躍している。

 「本当に人の役に立つロボットを開発したい。役に立たないロボットは無用の長物」と言い切り、「寝ている間に自分の現場が完成している」という理想の姿を追い求めている。現場だけではなく、その他の業務もロボットがこなす世界を夢見ており、人と共存する人型ロボットであることが重要との考えを示す。

 一方、地元の佐賀県など地域の建設業は危機的な担い手不足の状況にある。「業界全体が高齢化している。遠隔操作や自動化などでイメージを良くし、若い人に興味を持ってもらいたい」と前を向く。

 「楽するために今、必死に頑張っている」と笑顔を見せる。技術で世界とつながっている角氏とはるみちゃん。その存在は、これからも地域建設業の未来を照らし続ける。

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