【それぞれの2025 】ICT施工で切り開く未来 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【それぞれの2025 】ICT施工で切り開く未来

◆建機100台超保有の地域建設企業

 群馬県渋川市に本社を置く佐藤建設工業(佐藤本位田社長)は、ICT施工で地域建設企業の未来を切り開いている。もともとは機械土工の専門工事業者で、10年ほど前からICT技術の活用を始めた。元請けとして地方公共団体の工事を手始めに現在は直轄工事にも参入し、発注者もその技術力には舌を巻く。2022年に受注した工事ではBIM/CIMを活用したフルスペックのICT施工に加え、遠隔操作などにも挑戦した。突き動かす原動力とは何か。陣頭指揮を執る佐藤晃一副社長に聞いた。

佐藤建設工業(群馬県渋川市)
 佐藤晃一副社長

 1968年に創業した同社は、大型ダンプ1台から始まった。たたき上げの本位田社長が苦労を重ね、ダムの関連工事を請け負うなどして、国内屈指の建設機械を保有する会社へと成長した。
 大型建機も数多く保有し、建機の数は100台を超える。施工中の工事は土工量約200万m3の現場もあり、保有する建機の多くが常に稼働する。社員数は約50人。現在は公共と民間工事、採石業の3本柱で事業を展開し、安定成長を実現している。

 同社の1つの転機は十数年前にさかのぼる。「元請けとして工事が取れないのは悔しい」。晃一副社長の思いが下請工事中心だった経営方針を大きく変えた。本位田社長の直轄工事を受注したいとの思いも重なり、県工事などで元請けとしての実績を積み重ねてきた。
 10年ほど前からはICT技術の活用も始めた。「自動追尾TS(トータルステーション)がはやっていて、使いたくなっただけ」と謙遜するが、施工管理のICT化などに積極的に取り組んだ。当時はこうした技術の活用による設計変更はなかったが、好奇心を持ち続け、技術力を高めた。
 12年に念願だった直轄工事を元請けとして初めて単独受注して以降も研さんを積み、21年に受注した関東地方整備局利根川水系砂防事務所発注の「R2濁沢第一砂防堰堤工事」でフルスペックのICT施工を実現した。3次元起工測量から3次元データの納品までの計5項目全てをこなすとともに、AR(拡張現実)を使った受発注者協議も実践してみせた。

 技術力の高さが認められ、日光砂防事務所が主催した講習会の講師に招かれるなど活躍の場が広がる。利根川水系砂防事務所の小島宏一副所長は「重機を保有する元請け企業が少ない中、自社機を使いこなす秀でた技術力を持っている。これからも地域のICT施工を引っ張ってもらいたい」と期待を込める。

無人で動く建機


◆深刻な担い手不足
 好奇心から始めたICT施工だったが、同社を突き動かすもう1つの大切な理由がある。それは、深刻な担い手不足への対応だ。実は数年前にベテランのオペレーターが退職し「技術を伝承しておくべきだった」と悔いが残った。だが、ICT施工が技術の維持・向上という命題を解決に導いてくれるという。
 基面整正など数cmの誤差が求められる作業は従来、熟練のオペレーターが担っていたが、「ICT建機を活用することで中堅オペレーターでも決められるようになった」と成果を口にする。さらに丁張りレスによる施工の合理化や、重機周りに測量員が不要になったことによる安全性の向上など導入効果は計り知れない。

 一方、施工技術の高度化を全社的に展開することは簡単ではないという。オペレーターへの教育には時間がかかる。さらに、ICT施工に積極的な砂防工事に対し、深い渓谷など地域特性のある河川工事では実施していないケースもあり、社内の技術者間で技術力に差が出てしまうなどの問題もある。
 しかし、ICT施工が担い手不足に有効であるとともに高品質な工事につながるとの確信を持っている。だからこそ、今後については、起工測量と出来形管理については社内標準とする方針を打ち出す。4月に高精度の測量機器を搭載したドローンも購入した。「外注するとパンチの効いた見積もりがくる」と話す3次元データ作成作業の内製化で盤石な体制を整える。また、専門人員増など社内のサポート体制の強化も図る。

◆自律化施工が夢
 9月には利根川水系砂防事務所が発注し、同社が22年に受注した「R3濁沢第一・第二砂防堰堤工事」の現場で、浅間山の噴火に備えた無人化施工機械の操作講習会が開かれた。大林組などが開発した汎用遠隔操縦装置「サロゲート」を活用し、初めて遠隔操作にも挑戦した。同工事でBIM/CIMも導入するなど攻めの姿勢を崩さない。
 講習会の数日後には自身の母校の生徒を現場に招き、見学会を開催した。「この見学会もきっかけとなり、参加者の1人が入社することが決まった」と笑顔を見せる。

 「自律化施工が夢」と語る。会社が大きく変化したこの10年間について、「ワクワク、ドキドキの連続で、あっという間だった」と振り返る。「最先端の技術が建設現場にはある。古くさい業界のイメージを払拭したい」と語り、ICT施工とともに新たな時代を築いていく。

3㌔離れた操作室から遠隔操作



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