松尾代表は15年に3次元データを使った施工技術を確立して以降、建設会社に勤める傍ら、現場で得るリアルな経験や知見を生かし、国や地方公共団体、協会、メーカー、施工企業らにICT施工などに関する支援を続けてきた。正治組(静岡県伊豆の国市)の大矢洋平土木部長が主宰するやんちゃな土木ネットワーク(YDN)にも参加し、全国に同じ志を持つ仲間と活動を展開してきた。
こうした活動を経て、地域建設業に対しては、「ICT施工のやり方などを発注者に全部用意してもらえると思っている。口を開けて待っている会社が多い」と感じている。続けて「未来は100%デジタル化する。動く企業と動かない企業の両極端になっている」と現状を見ている。
「肌感覚だが、デジタル化に動く企業は1割にも満たない」とし、このままでは政府が閣議決定した「未来投資戦略2018」に盛り込んだ25年の生産性2割向上実現は難しいと考えている。
変わる企業の多くは、社内にデジタル化への気付きを持った社員がいるか、ICT施工を推進する直轄工事を受注しているかのいずれかのパターンが多いという。「一歩目が一番のハードル」となるが、「デジタル化に対応できない企業はじり貧になる」。一方、「デジタル化は武器になる。技術の習得は価格交渉力を高める」と有用性を説く。
◆これからは〝個〟の時代
技術の進化はこれまで以上に加速している。「YDN発足当時は地域の離れた会社単位で盛り上げていくという感じだったが、今は個の時代に変わりつつある」と話す。前出の新年メッセージを大地に刻むプロジェクトを例に、組織や場所ではなく、“個”の力とネットワークが新たな時代を切り開いていくと確信している。変化は受発注者の区切りなく、建設業全体に訪れている。
北海道の地域建設企業に勤める20代会社員による、新たな時代を象徴する取り組みに注目している。個人の趣味が高じて、米アップル社製のスマートフォン「iPhone」に実装されたLiDAR(レーザー式測距装置)を使い、「数多く存在するアプリを検証し、一覧表を作り、それが日本の中でマニュアルになっている」と話す。しかも日本にとどまらず、このマニュアルが世界的にも知られてきているというのだ。
こうした展開を踏まえ、今後は「個人が発信していくことがさらに重要になる」と断言する。「この業界は『見て覚えろ』的な考えが多かったが、これからは違う。そんなことをしていると時代に取り残される」と話す。ノウハウが広まることで技術が陳腐化する懸念に対しては、「その時は次のことを考えれば良い」と前を向く。
「これまでは10年先、15年先を見て生きてきたが、最近は追いつかれてきた。自分が遅くなったのではなく、時代の流れが速くなった。次の時代が来ている。この生き方をあと2、3年程度できたらいい」と話す。「その後は一現場作業員に戻るかな」と笑顔を見せ、建設業とともに生き抜く覚悟を示す。
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