建設現場に多くの人材を受け入れ、技術者を育成するため、東京都財務局が2016年度から試行している取り組みの1つが「女性活躍モデル工事」だ。今回は試行対象案件として、東京都国分寺市で進められている「東京都公文書館(29)改築工事」と、設備工事では初のモデル工事となる「同改築空調その他設備工事」を紹介する。
改築工事、空調その他設備工事、電気設備工事、昇降機設備工事の4件のうち、五洋建設が担当する改築工事と、日立プラントサービスによる空調その他の2件が、女性活躍モデル工事の試行対象案件となる。
同モデル工事は、監理技術者、現場代理人、担当技術者のいずれかに女性技術者を配置し、女性専用の更衣室や水洗トイレ、洗面台、鏡などパウダールーム設置や広報活動を求めている。
都財務局の小野幹雄建築保全部長は「建築工事に比べ設備業種の女性技術者は少ないものの、空調では事例もある。条件が整えば、電気、給排水でも試行したい」と話す。都有施設初のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化実証建築でもあり、「やりがいもある現場」と期待する。
建築工事は10月下旬から躯体工事に入り、19年2月の上棟、12月の完成、20年1月の竣工に向けて進めている。10月末の進捗率は23.8%。空調工事は、10月下旬から建築躯体工事に合わせ、スリーブ工事を進めている。19年2月からは、上棟に合わせて順次設備工事を始める。10月末の進捗率は4.5%。
五洋建設の吉塚正広工事所長は「重大災害を起こさず、協力業者と施工計画などを確認しながら、手戻り・手待ちのない工程管理を心がける」、日立プラントサービスの渡邉駿介工事長は「安全を第一に、エンドユーザーが気持ちよく使えるように、品質、工程などに留意しながら施設をつくる」と意気込みを語る。
両工事のそれぞれの事務所に女性用の更衣室、洗面台付きのトイレを整備したほか、別途、作業員向けの洗面台付き女子トイレ、女性用の休憩室も設置している。日本建設業連合会「けんせつ小町工事チーム」にも登録済みだ。
吉塚所長は「建設業は更地から1つの建物を建てるのが魅力。女性技術者は最終的には、現場代理人になる意欲を持ってやってほしい」と呼び掛ける。女性技術者が現場で働くのは同社では初という渡邉工事長は「女性に限らず、多様な人材が働くために、何が必要なのかを考える良い機会。次世代の人材の育成につなげたい」と見据える。
また日立プラントサービスは、会社のバックアップとして、ITを活用した自動墨出しロボットやiPadによる現場管理ツールを導入している。自動墨出しロボットは、非熟練作業者1人でも、迅速で高精度な設備機器据付工事の墨出し作業ができる。社内から操作を含め技術支援を得られるよう体制を整えている。
五洋建設の監理技術者・黒木由佳さんは「建物が完成するまでのいろいろな出来事、それぞれに思い入れがある。完成した時の達成感や、建物が形として残るところに魅力を感じる」と話し、建設業界を志す女性には「1、2年目で仕事の大変さを実感すると思うが、それ以上のやりがいは、続けることで増える」とアドバイスする。
日立プラントサービスの監理技術者・江藤貴子さんは「在館者や公文書保管のための温湿度環境を構築するため、打ち合わせをして、物事を一つずつ進めていく過程が勉強になり、やりがいでもある」と感想を述べ、「建物ができあがる過程を知ると、興味がわく点が増えると思うので、続けることで仕事もおもしろく感じる」とエールを送る。