横浜市のパシフィコ横浜で6日から9日まで開催された「下水道展’19横浜」は、会期中4万6000人を超える来場者でにぎわった。下水道事業が持つ社会的な意義や新たな価値を広く発信しようと346社・団体が1098小間を出展した中で、ひときわ耳目を集めたのが、NJSと日水コンの展示ブースだ。前者は建築家で東大教授の千葉学氏がデザインを担当。後者は女子美術大と協働して「アート下水道」に挑んだ。ともに専門分野の垣根を越えて連携・協働することで下水道事業を将来にわたって支える技術や、新たな未来を模索する思考を可視化し、その可能性を拡げる場を提供した。

◆NJS　最先端ドローン飛行を体感
　NJSは、「豊かな下水道資産を次世代につなげるためのインフラマネジメント」をコンセプトに、持続可能性、強靱性、技術革新の3つの切り口から同社の最新技術を展示。そのデザインに当たって、千葉氏は「ふだん目にすることがない土の中にこれほど最先端の技術があってサスティナブルな環境を支えていることに感動を覚えた。それをリアルに見せる、来場者が体験できる展示がいいのではないかと考えた」と語る。

　同社が独自に開発を進めている下水道管路など閉鎖性空間の点検・調査用ドローン「Air Slider（エア・スライダー）」のデモ飛行では「地中のインフラをスケルトン状態とし、実際に狭い管路の中や、共同溝・下水管が入り組んだ構造体の中を飛んでいるところがダイレクトに伝わるように留意した」（千葉氏）という。
　展示ブースの中央に配した長さ8mにおよぶ透明アクリルの管路を飛行する径400－1500mm対応モデル「AS400」は、内側に埋め込んだ照明の光の中でその姿をまさに浮かび上がらせた。
　非GPS（全地球測位システム）空間でも自律飛行できる大口径用モデルの「AS600」も初公開。デモ飛行では常に多くの人垣ができた。
　自身1級建築士でもあるNJSの村上雅亮社長は「われわれが見せたいところ、展示したいものとデザインとの調和についてはディテールに至るまで細かく議論した」と千葉氏との協働作業を振り返りつつ「そうした議論を受け止め、われわれの意向を汲んでもらいながら来場者が思わず足を止める、見たくなるようなインパクトのある、なおかつシンプルでセンスのいいものを丁寧にデザインしていただいた」と満足げに語る。
同社の展示ブースは、ブースのデザインや展示内容、プレゼンテーション内容の優れた出展者を表彰する「出展者表彰（4小間以上部門）」の優秀賞を受賞している。

◆日水コン　アート型思考で新たな価値
　「下水道業界に風穴を開けたい」－－。アート下水道プロジェクトは、日水コンのこうした思いから生まれた。下水道事業のさらなる飛躍のために、「豊かな感情が多様で深い思考を育む」という野村喜一会長のトップメッセージを踏まえ、マニュアルや指針といった従来の「思考型」に、豊かな感情による「アート的思考」を追加して下水道の新しい価値を生み出そうというプロジェクトに挑戦している。
　その皮切りとして、豊かな感情や感性を起点として芸術作品を創造する女子美術大学と協働。学生13人とことし1月からプロジェクトを始動し、下水道施設の見学会や勉強会を行い、学生に理解を深めてもらいながら、日水コンの社員が勤務時間後に大学を訪ねて下水道の新たな表現手法について議論を重ねていく中で、「アートシンキング」とは多様な感情に向き合うことで磨かれ、創造力を増し、深い思考による課題解決につながるという独自の解釈を導き出したという。今回の展示では、下水道の機能である「集める」「運ぶ」をテーマに女子美大の学生とブースを構成。循環をテーマとした絵画作品集と、アクリルキューブに来場者が下水道への思いを書いてもらう参加型作品、汚泥焼却灰で染めたドクターコートなどのほか、20を超えるパネルを「人」「技術」「イノベーション」の3つの切り口で紹介した。

　「学生たちと日水コンが協力して制作した一つひとつの作品とデザインは『下水道』という地下世界の未来を照らす灯りとなるのではないだろうか。そしてその灯りは確実に地上をも照らすこととなるだろう」と女子美大の大森悟教授が展示に寄せたメッセージのとおり、日水コンは今回を通過点に今後さらにアートシンキングと創造のサイクルを回すことで少しずつ意識の変化を重ねていくことが大きな課題解決につながっていくと見据え、「創造性あふれるコンサルタント」を目指していく。

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