戦後の闇市を起源として各地に生まれた呑兵衛たちの憩いの場「横丁」。入り組んだ路地に軒を連ねる飲み屋街は、おじさん御用達のイメージが強く、女性や若者が近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。そんな横丁が最近は進化し、独自のコンセプトを持った「ネオ横丁ブーム」が起きているという。新橋などとともに、サラリーマンの街という印象の根強かった東京・虎ノ門エリアに、ブームをけん引する「虎ノ門横丁」が誕生して2年が経過した。オープン時からコロナ禍に見舞われた厳しい船出だったものの、大手ディベロッパーの森ビルが手掛ける横丁は、着実に街に変化をもたらしている。
六本木ヒルズなどに代表されるように、日本の都市再生をリードしてきた同社が虎ノ門エリアで現在開発している虎ノ門ヒルズは、「国際新都心・グローバルビジネスセンター」の構築をコンセプトに掲げている。一大ビジネス拠点を標ぼうし、国際水準のハイスペックオフィスに加え、レジデンスやホテル、商業施設、広大な緑地空間なども同時に整備する。多様な人々が常に集い、躍動する新たな街を提案した国内最大級の再開発プロジェクトの1つだ。
先行した「虎ノ門ヒルズ森タワー」に続き、「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」が2020年1月に竣工した。その3階部分に「虎ノ門横丁」はある。開業は20年6月。ほかの横丁とは一線を画す、ここならではの価値を生み出そうと、17年から企画検討をスタートした。
◆軒を低く道幅狭く 温かさ醸し出す
「人と人がつながる場所」をコンセプトに、東京の名だたる名店26店舗を誘致した。「食べ歩きの達人」と呼ばれるマッキー牧元氏監修の下、これまで本店のみで多店舗展開してこなかった老舗や会員制店舗などの出店に成功した。飲食業界の常識を覆し、本店にはいままで足を運べなかった人でも気軽に利用できる独自のスタイルを確立した。
コンセプトに基づき、ハード面では店主や周りと距離が近いカウンター形式の小規模店舗を展開し、各店にはテーブル席を設けなかった。
一方で、店舗や客同士がつながる場所として、各店の料理や飲み物を持ち寄れる中間スペース「寄合席」を用意し、多様なつながりや交流を促す仕掛けをつくった。一般的なフードコートは天井を高くして開放感を演出するのに対し、あえて軒を低く抑え、道幅も狭くするなどして、横丁らしい一体感のある空間を整備した。
ソフト面の取り組みでは、開業の半年前から店舗同士がコミュニケーションを取れる懇親イベントなどを開き、商店街のような温かな関係性の形成に努めた。店舗間で競争するのではなく、横丁の一員として団結する雰囲気を醸成した。その結果、仕入れ先の紹介や新メニューの共同開発、スタッフの柔軟な融通など、通常の飲食店街ではなかなか起こりえない事例も生まれているという。
虎ノ門横丁は、コロナ禍の真っただ中にオープンした。いまも依然として一定の制約がつきまとう状態だが、コロナの期間だからこそと、マッキー氏が発起人となり各店主を集めた勉強会を開いている。森ビル役員も加わる形で、店舗オーナーとの意見交換会も行っている。
かつての虎ノ門エリアは、サラリーマン中心のビジネス街という印象が強く、休日は閑散としていた。しかし、虎ノ門横丁を目的地とし、これまであまり見かけなかった20代後半から30代前半の若い女性や、ベビーカーを押した家族連れなども訪れるようになり、街に新たな人の流れを生み出している。
LINEの友だち数(登録者数)はコロナ禍でも順調に増え、4月末時点で2万7839人になった。その6割ほどが女性で、年代は20代後半から30代前半の層が多くを占める。まさに狙いどおりの効果が数字にも表れている。
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