【虎ノ門・麻布台プロジェクト】"ヒルズの未来形" 人々の営みがシームレスにつながるまちを目指す | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【虎ノ門・麻布台プロジェクト】“ヒルズの未来形” 人々の営みがシームレスにつながるまちを目指す

 森ビルが主導し、東京都港区で8月に着工した「虎ノ門・麻布台プロジェクト」(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業)。総延べ86万㎡、建物高さ330m、事業費約5800億円といった数字ばかりに目を奪われがちだが、計画段階では独特なアプローチから検討が進んだ。“ヒルズの未来形”にはどのような思想が織り込まれているのか。キーパーソンの1人である大森みどり森ビル都市開発本部計画推進部部長に話を聞いた。

大森部長

 大森部長はこれまで、六本木ヒルズの設計と完成後の施設マネジメント、虎ノ門ヒルズのプロジェクトマネジメントに携わり、虎ノ門・麻布台では企画やコンセプト検討などを担っている。
 虎ノ門・麻布台プロジェクトは、「Modern Urban Village(モダン・アーバン・ビレッジ)」をコンセプトとしている。「通常の開発とはまったく逆のアプローチで、まず中心に広場を据えてから建物を検討した」(辻慎吾森ビル社長)のは、「人々の営みがシームレスにつながるまち」を目指したためだ。

◆東京らしさ
 特に重視したランドスケープや低層部の建築デザインには、ロンドンオリンピックの聖火台などを手掛けたトーマス・ヘザウィック氏を起用した。大森部長が以前から注目していたデザイナーでもある。「東京らしさを大切にしながら、まちの中でどう歩いてどのように自然・緑と出会うか」を意識しながら、ヘザウィック氏とデザインの交渉を幾度となく重ねた。ただ、ヘザウィック・スタジオにとって日本で初めての仕事であり、それほど日本に精通していたわけではなかったため、「東京らしさ」の解釈も難しかった。
 一方、英国の国際情報誌『Monocle(モノクル)』で編集長を務めるタイラー・ブリュレ氏には、コンセプトワークを依頼したが、「いまの日本人が持つ文化的な洗練や、技術水準の高さを表現することも日本らしさ、東京らしさの1つだ」とのアドバイスを得た。これが大きなヒントとなり、「自然と建物、商業的な空間・体験が一体化する」デザインにまとまった。「必ずしも直接的な東京っぽさ、日本らしさではないものの、現代の日本・東京でなければできないものになった」と手応えを感じている。
 人と緑のナチュラルな出会いを目指して優先配置を決めた広場だが、「日本の在来種を大切にしていきたい。建前だけの緑化ではなく、最新のテクノロジーも導入してきちんと管理していく」。外部の専門家も交えた専門家チームを設置し、タウンマネジメントと並行してさまざまな知見やデータの蓄積なども進める方針だ。

東側エントランス

◆時間や体験を提供
 広場には、さまざまな都市機能の境界線を溶かし、接続する役割もある。「人々の営みがシームレスにつながるまち」の実現を後押しする。大森部長は、「オフィスや商業施設といった施設の機能をそれぞれ単一で独立させるのではなく、シームレスにハードとソフトをつなぎたい。1つの場所を人や時間、目的などに応じて自由に組み替えられるイメージだ」と説明する。それは新たな働き方の提案にもつながる。「“ワーク・ライフ・バランス”という言葉もあるが、これからは仕事と生活とを天秤にかけるような時代ではなくなるだろう」
 こうした思想の織り込みは、「ゼロからまちづくりを進めるからこそできるチャレンジであり、これまでのヒルズの作り方とは根本的に違う。ディベロッパーとして単に床を提供するのではなく、時間や体験を提供していきたい」との思いがある。

中央広場

◆情熱、ヒルズのDNA
 3つのヒルズの開発に携わってきた大森部長は、「都市づくり(再開発事業)は単なる等価交換ではない。そこに関わる一人ひとりの情熱が重要だ。来街者に何度も訪れようと思ってもらうには、情熱がなければ成り立ち得ない。それがこれまでのヒルズの特徴でもある」と話す。
 六本木ヒルズの最上階には美術館を設けたが、当時は関係者から「なぜ一番価値のある最上階に文化施設を配置するのか」と批判を受けた。その後、情熱を持ってコンセプトを説明して理解してもらったが、「もし最上階をオフィスにしていたら、いまの六本木ヒルズではなくなっていただろう。完成から15年以上が経過したいまでも、それは間違っていなかった」と感じている。
 企画段階では多様な主体が関わっているが、特に建築家やデザイナーの熱量は大きく、「彼らの情熱を受け止められるようなプロジェクト企画を意識した」。個人の情熱が、結果として多くの関係者の情熱をも巻き込むためだ。デザインと経済性は時としてトレードオフとなるケースもあるが、「短期的には経済合理性がないように見えても、50年、100年という街の長期スパンで合理化を目指す」。その構図は、六本木ヒルズの美術館も同じだ。

着工直前の開発エリア

◆想像力と創造力
 開発に向けた地権者らによる検討開始から、着工に至るまで約30年の歳月がかかった。その30年間で、社会経済情勢や人々のライフスタイルが大きく変化した。それは今後の30年間も同じだろう。このため、企画段階では「これまでの取り組みのコピー&ペーストではなく、時代に先駆けた提案が求められる」
 今後長期にわたって人々に使われるまちを、現時点でどうデザインすべきか。未来への想像力と都市の創造力が問われる作業でもある。「未来を形づくる要素は至る所に偏在し、種はどこにでもある。では、われわれはどんな未来を選択するのか」。その答えは、虎ノ門・麻布台プロジェクトに織り込まれつつある。

全景

【工事概要】
▽事業名称=虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業
▽所在地=東京都港区虎ノ門5、麻布台1、六本木3
▽建築主=虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合
▽総延べ床面積=約86万0400㎡
▽各棟規模/建物高さ=(A街区・複合棟)地下5階地上64階/325m
(B―1街区・住宅棟)地下5階地上64階/262m
(B―2街区・住宅棟)地下5階地上54階/237m
(C―1街区・店舗棟)地下2階地上3階/15m
(C―2街区・複合棟)地下3階地上8階/41m
(C―3街区・店舗棟)地下2階地上3階/23m
(C―4街区・寺院棟)地下1階地上3階/12m
▽主要用途=住宅(約1400戸)、事務所(約21万3900㎡)、店舗(約150店)、ホテル(約120室)、インターナショナルスクール(約1万4000㎡、ブリティッシュ・スクール・イン・東京(予定))、中央広場(約6000㎡)、文化施設(約9000㎡)など
▽敷地面積=約6万3900㎡
▽区域面積=約8.1ha
▽緑化面積=約2.4ha
▽設計=森ビル
▽低層部建築、ランドスケープ=トーマス・ヘザウィック氏(Heatherwick Studio:英国)
▽高層タワー(3棟)建築=PCPA(米国)
▽ブランドコンセプト=タイラー・ブリュレ氏(Winkreative:英国)
▽その他参加建築家、クリエーターなど=フレッド・W・クラーク氏(PCPA:米国)、藤本壮介氏(藤本壮介建築設計事務所)、グレン・プッシェルバーグ氏、ジョージ・ヤブ氏(Yabu Pushelberg:カナダ)、マルコ・コスタンツィ氏(Marco Costanzi Architect:イタリア)、スー・K・チャン氏(SCDA:シンガポール)
▽施工=清水建設、三井住友建設、大林組など
▽事業費=約5800億円
▽着工=2019年8月5日
▽竣工=2023年3月31日

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