BIM/CIMを「歩み寄る」ためのツールに
建設コンサルタンツ協会近畿支部のICT研究委員会は、国土交通省のBIM/CIM原則適用を見据え、情報収集や講習会、意見交換といった活動を積極的に展開してきた。現在は上流と下流へのデータ連携といった課題に正面から向き合い、これからの建設コンサルタントの在り方について模索している。同委員会委員長の森博昭氏(中央復建コンサルタンツ)、副委員長の大森映宏氏(協和設計)、インフラDX分科会幹事の漆谷悟氏(修成建設コンサルタント)、AI分科会幹事の一柳知之氏(ニュージェック)、インフラDX分科会副幹事の赤坂好敬氏(同)と逢坂直樹氏(国際航業)、西本雄亮氏(日建技術コンサルタント)の7人に「建設コンサルタントの未来」をテーマに語り合ってもらった。
データ連携で事業のシームレス化
――現在の活動テーマは
大森 これまでの委員会活動を振り返ると、2022年度と23年度はBIM/CIMの原則適用に向けた課題の整理と対応に主眼を置いてきました。実務レベルではBIM/CIMへの対応はかなりできるようになっていますが、われわれのつくったBIM/CIMデータが活用されていないという指摘もあり、24年度の活動は今後どうすれば活用してもらえるのかという部分に重点を置いています。
一柳 AI分科会は「情報」「調査」「開発」の3つのワーキング(WG)で構成し、現在16人が参加しています。昨年度に引き続き、立命館大学の野村泰稔先生にアドバイザーをお願いしています。最近は生成AIが注目を集め始め、様相が大きく変わりつつあるのでしっかりと情報収集していきたいと考えています。
漆谷 インフラDX分科会には「技術調査」「企画広報」「BIM/CIM活用促進」「i-Con情報連携検討」の4つのWGがあります。このうちBIM/CIM活用促進はBIM/CIMのさらなる活用促進を図り、i-Con情報連携検討は、設計から施工へのデータの受け渡しに特化して議論しています。企画広報は建設コンサルタント業の広報の在り方を考え、技術調査は他の3つのWGと連携し、課題解決を進めています。
赤坂 技術調査WGにはインフラDX分科会の28人全員が参加します。取り組みの一つが新技術の発掘で、BIM/CIMデータの新たな有効活用に向け、VRやARの技術を持つ企業にアプローチして情報収集もしています。いずれは海外視察も実現したいと考えています。西本 企画広報WGは6人で活動しています。ICT研究委員会の活動を外部に発信することをメインに、その具体の中身について議論しながら取り組んでいます。昨年11月の委員会活動中間報告会の際には発表報告だけでなく会場の一角でパネル展示も行いました。これからはホームページも使った発信にも力を注ぎます。これまでは活動報告をPDFデータで掲載していましたが、活動内容がわかりにくいという意見もあり、改めて今協会HP上にICT研究委員会のウェブサイトを開設し、コンテンツも増やす計画です。
逢坂 BIM/CIM活用促進WGには14人在籍しています。もっとBIM/CIMデータを有効に活用する枠組みや、最適な業務効率の在り方などについても意見交換しています。日常業務で使うBIM/CIMソフトにこんな機能が欲しいとか、ソフトベンダーに対する要望活動も現在進めています。
森 i-Con情報連携検討WGには8人参加しています。BIM/CIMはこれまで設計から施工、あるいは施工から維持管理へと進むプロセスで、データをどう受け渡していくかがほとんど議論されることがありませんでした。我々が作ったデータが次の工程においてどのように使われているかを、われわれ自身がもっと勉強しないといけないと思っています。
大森 監督検査でBIM/CIMデータを使う動きや、設計のBIM/CIMデータと実際の現場での出来上がりをARで重ねて出来形を検査するといった活用も始まっています。施工者側もこれまで使えるとは思っていなかった設計段階のBIM/CIMのデータ活用を認識し始めているように感じます。赤坂 施工者や発注者と共にデータ連携をテーマとした議論の場を設けるといった取り組みを続けていますが、対話を重ね、われわれのBIM/CIMデータの作り込みの必要性に対する認識も変わってきたと感じます。今後はさらにデータ連携がシームレスに進むようになると考えます。
逢坂 ただ、今の仕組みにも問題はあるのではないでしょうか。一番の壁は、ファイルやソフトの違いによってデータをうまく次へ連携できない部分だと思います。単に個人や企業の努力ではどうしようもなく、発注者や業界などのさらなる対応も必要かと思います。
森 われわれが設計段階で持っている情報量が限定的になるのに対し、施工段階で施工者が蓄積、保有する情報量は圧倒的に多いのが現状です。だからこそわれわれから「ここの部分のデータは使える」「ここのデータを加工してみてはどうか」と積極的に提案するようにすることで、BIM/CIMデータをより効果的に活用できると考えます。
漆谷 私もこれまで施工者のことまで考えが及びませんでした。BIM/CIM活用の流れは急速に変わりつつありますから、われわれ建設コンサルタントの意識も変えなければなりません。
世代や立場超えコミュニケーション促進
――原則適用から1年8カ月が経過した
森 BIM/CIMモデルを作る人たちの中にこれまでになかった新しいコミュニティが生まれ始めているように感じます。当社でも所属の部署や上下関係にかかわらず、情報交換などを社内のチームズを介して楽しそうにやりとりしているのを横目で見ていて、これまではなかった感じを受けます。
大森 若い人達にとってBIM/CIMはすぐ覚えることができます。それは良いことですが、建設コンサルタントという技術者にとって最も根本的な「設計をする技術」そのものが衰えていく危険もあります。技術をこれからどう継承していくかという部分も、BIM/CIMを議論する上で重要なテーマになります。
森 そもそもBIM/CIMはi-Constructionや建設DXを推進するためのツールのひとつに過ぎません。社内インフラの整備をより効率的に、安全かつわかりやすく進めていくための便利な道具だと割り切って使っていくことが出発点です。
逢坂 働き方改革の動きが加速していますが、時間外労働の規制も始まる中で効率的に業務を進めるツールとしてもBIM/CIMはあるべきです。最終的には建設コンサルタント業務の仕事の進め方や業務の流れ、仕組みそのものを変えていくきっかけとしてBIM/CIM活用を考えるべきと私は思っています。
一柳 他業種も同じでしょうが、今の建設コンサルタント業界では40歳代が極端に不足しています。若手技術者は比較的、BIM/CIMソフトの操作はスムーズにできますが、まだ設計の根幹を理解していない部分があります。逆に熟練技術者は設計の根幹は習得しているが、BIM/CIMソフトの操作は苦手です。それぞれの強みの部分をうまく融合していく組織づくりも必要になるでしょう。
漆谷 まさにBIM/CIM活用を推し進める中で、働き方改革と合わせながらいかに組織を構築していくかが建設コンサルタント各社では重要なテーマになってくるでしょう。
――建設コンサルタントを取り巻く変化とは
赤坂 当社では社員全員参加によるBIM/CIM講習を実施しました。役員も含め、全社員に3次元CADというものを知ってもらうことで、会社を挙げて取り組んでいるBIM/CIMの重要性を共有してもらうことが狙いです。
森 それは興味深い取り組みだと思います。年代や仕事の内容といったレベルの違いはあるにせよ、コミュニケーションが何より重要だということは当社でも感じている部分です。
赤坂 最近は関係者全員でモニターを見ながら議論する時間が確実に増えています。モデルを使うことでイメージしやすく、理解も深まり、伝達のスピードが早くなります。コミュニケーションのためのツールの導入が増えたことも変化の1つです。
西本 コロナ禍を経て、ウェブ会議方式がすっかり根付き、交通費や移動時間というコストを大幅に短縮できるということは、業務効率化の観点で大きなメリットです。逆にそれによって現場に訪れたついでに他の現場にも出向いてみようということが少なくなっています。BIM/CIMデータに限らず、最新のテクノロジーを使ってどう業務をより円滑に進めることができるか、そのアイデアを実践していくことも重要です。
漆谷 建設コンサルタントの未来という視点で考えると若年層、若手世代をいかに増やせるか、または将来に繋がる人材育成がすごく重要になります。国が音頭をとって土木のDXが進む一方でまだまだ世の中には浸透していません。建設コンサルタントの役割や先進的な取り組みをもっとしっかり発信する必要性を私自身も痛感しています。
一柳 建設コンサルタントは総じてアピールが下手なところがあります。ゼネコンとは少し違った視点で、シンプルに建設コンサルタントにはつくる楽しみがあると発信するのも、実は大切かもしれません。
逢坂 今の流れを見れば、私達の未来は基本的に明るいと私は感じています。DXの目指すべきところは、みんなが効率よく働くことです。BIM/CIM原則適用をきっかけに、円滑に業務を進められる仕組みづくりが今、次世代のためにわれわれがすべきテーマの1つではないでしょうか。大森 設計の領域と施工の領域をあえて突き詰め過ぎずに、お互いうまく許容することも建設コンサルタントとしての技術のひとつだと思います。発注者、設計者、施工者がお互い歩み寄るためのツールとしてBIM/CIMが機能することが一番理想ではないでしょうか。
森 個人的に一番のキーワードは「歩み寄り」ではないかなと思っています。立場の違いを認めながら歩み寄ることが、設計者と施工者の間であったり、発注者と設計者であったり、あるいはデジタルと土木工学への歩み寄りだと思います。若手とベテランの間にも歩み寄りは必要です。様々な切り口から歩み寄ることで建設コンサルタントの働き方はさらに進化し、われわれの存在意義も高まっていくことでしょう。